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2023.01.26

ライフ

「自分の美しさに気づくには時間が必要」光を追求する写真家ミシェル・ミシナ



当記事は「FLUX」の提供記事です。元記事はこちら。 

ありふれた話だが、ハワイ出身の写真家ミシェル・ミシナさんが故郷に帰るときだと感じたきっかけはSNSだ。

ミシナさんは10年以上ロサンゼルスで暮らしてきた。ロサンゼルスという都市は、ファッションや食べ物からアートや音楽に至るまで、あらゆる面で創造的なエネルギーがほとばしっている。刺激は受けるものの、見るべきものとすべきことが常に溢れていて、ときに打ちのめされることもあった。

ある日、インスタグラムを眺めていると、ミシナさんのフィードに短い動画が表示された。ハワイ島のコハラで風にそよぐ草の映像。「動画自体がすごかったわけじゃありません」とミシナさんは言う。しかし、平和な素朴さに力があった。

「その動画に呼ばれて、私は故郷に帰ってきたんです」。



レイ・ソジョット(以下RS) 初めてカメラを手にしたのはいつ頃ですか?

ミシェル・ミシナ(以下MM) 父が家族の写真を撮るのにハマっていたんです。小型の使い捨てカメラをあちこちに置いて、私たちが何かするたびに撮影していました。父は写真家ではなく、家族の記録を残すのが好きだっただけです。私がカメラを手にしたのも、ただ身近にあったからで。実家の近くに崖があって、毎日犬のトビーをケアラケクア湾が見渡せる、ガラ空きの駐車場に散歩させていました。

フラッシュ付きの使い捨てカメラを持っていって、日が沈むところを撮影して、夕焼けの写真を撮るのにフラッシュなんていらなかったんだけど(笑)。何かわからないけど、たまにすごくワクワクする写真が撮れたりして。その頃から定期的に写真を撮るようになったけど、当時は夕焼けの写真を撮っていただけです。何でもない、空だけの写真。



RS では、写真撮影が仕事になると思ったのはいつからですか?

MM 写真はずっと趣味にしていました。写真仲間と歩きながら撮影したりして。でも、ふと思ったんです。「せっかくカメラがあるんだから、どこまでできるかやってみよう」って。現像した写真が戻ってきたとき、「これはちょっと意外で面白いかも」と思ったんです。いろいろ考えて、写真家として最悪な日でさえ、会社勤めでいちばんマシな日よりもいいはずだという結論に達しました。それが、写真家一本でやっていこうと決めた瞬間ですね。



RS 
ところで、私たちはどちらも感覚的な体験を大切にしていますよね。ミシナさんにとって感覚とは何ですか? 香水が好きで、光が好きで――

MM 食べ物が好き(笑)。音楽も大好きです。自分の感覚が満たされるのがいいんです。美しすぎる料理に我を忘れるとか、音楽に没頭しちゃうとか。感覚は、私たちを「今ここ」にとどめるものですが、同時に逃避の手段にもなります。

静かに座って周囲の音すべてに耳を傾けたり、風を肌で感じたり、特別な香りを感じたりして、一瞬のはかなさに気づくと、今に意識が向きます。一方で、音楽や食べ物、香りには、人を遠くへ連れて行く力もあります。思い出や夢との強い結び付きが感じられるのです。


 
RS そういえば、以前にポートレートの撮影を希望していた女性の話をしてくれましたね。本人はとても期待していたのに、完成した写真を見て自分の見た目に落胆する気持ちが伝わってきたと聞いて、私も少し悲しくなりました。

MM 私は普段、「普通の人」と仕事をします。自分を見つめたり、外向けの顔を作ったりするのに慣れているモデルやセレブリティではありません。ですから、写真の自分を見るときは厳しい審査員のようになります。自分の粗や自信のない部分はよくわかっているので、直後はそういう部分にばかり目が行ってしまう。だけど、誰でも20年前の写真を見れば、「なかなかいいじゃない」と思うでしょう。相当時間が経たないと自分の美しさに気づかないものですが、それは当然のことなんです。



RS その女性のような場合、どうやって相手をそういう考えに導くのですか?

MM 露骨な言動はとりません。私に今見えている美しさが、いつか本人にも見える日が来ると信じるしかないのです。ポートレートを撮るとき、私の仕事はあくまで写真撮影ですが、真に目指しているのは、被写体の本当の姿を見ることです。私は被写体のことが知りたい。カメラがあると、まるで架け橋のように相手の空間に入れます。いわばパスポートです。美しさは、相手を知りたいという気持ちから生まれるのです。


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