アートは問題を解決しない。だが関心を喚起できる
ずっと誰も見向きもしなかった場所に、突如として地縁のない男たちが現れ、海に転がるごみを拾っては延々と焼いていく。そのプロセス自体にもアート性を感じるが、藤元さんによれば、アートにはまだ情緒的なアプローチができ、そこに魅力と可能性を感じるのだという。
「サイエンスとアートの違いは、サイエンスは数値化されたデータやエビデンスがないと説得力を持ちませんが、アートは見えないものを感覚的に可視化して伝えられるところに強みがあります。
ひとつしかない作品に対して、売値が1億円でも買う人が現れれば成立。経済原理をすっ飛ばせる可能性がある。今回の作品も原価はほぼゼロながら、ちゃんとアート作品としての値がつきました」。
海ごみを主題とするストーリーにそれだけの価値がついた。
そしてクライアントワークではなく、作家が主体となって創作された作品につけられたその価値は、社会に訴える力とも言い換えられる。
「ごみ掃除は大切ですが、掃除だけを続けていても海がキレイになることはありません。『今後はごみを出さないようにしよう』と多くの人が意識を変えることも大切なんです。なぜなら個人が意識を変え、個人の集合体である組織の意識が変わっていくと、社会の変革にはスピードが備わりますから。
そしてアートには物事を解決するパワーはないものの、新たな気付きを提示して意識の変化を喚起することはできる。僕はそこに期待をしています」。
絶望の中に希望があるとすれば、五島列島も能登半島も、水質はとてもキレイだということだ。海ごみは河川から流出し、海を漂流して海岸に打ち上げられて溜まる。
つまり「海ごみは海ではなく陸の問題なのだ」と藤元さんは言い、今後も同様のテーマで創作を続けていくという。
「海ごみを素材としたバベルの塔を建てたいと考えています。人気のない海岸で、海ごみが溜まる限り天へと伸び続ける“海のバベル”を、まずは能登の海岸に。そして世界中の海ごみの溜まる海岸に建てたいですね。それは次の世代以降において憂いの象徴になりうると思うのです」。
構想は以前からあったというが、コロナ禍となったことで海外にはアプローチしにくい状況に陥っていた。
本格的な始動はこれから。その第一歩として、’22年11月下旬に三重県と和歌山県の海岸を視察に訪れた。そしてそこにも想像を超える数の海ごみが人知れず溜まっていたと、藤元さんは静かに振り返った。
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