「ラグジュアリーな電気」を示したメルセデスのEQS
メルセデス・ベンツ「EQS」。航続可能距離は日本で販売されている電気自動車で最長の700km。
エンジンのない電気自動車は、静粛性を重視するラグジュアリーモデルと本来は相性がいい。けれど、単にエンジンからモーターに載せ替えただけでは静かにはならない。
なぜなら、今までエンジン音にかき消されていたタイヤ音や風切り音などが副作用として耳に届くようになるからだ。
そこでメルセデス・ベンツは、従来の「Sクラス」の電気自動車版である「EQS」に対して、音対策を徹底した。
風切り音を減らすために、風洞実験を幾度も行い、デザイナーとともにドアハンドルの付け根などディテールまで詰め、量産車としては世界一低い空気抵抗値を実現。
また隅々まで防音発泡材を詰めるなど、騒音・振動対策を徹底した。
こうしてエンジン車時代には見過ごされていた音まで遮断された、電気自動車時代のラグジュアリーカー。新しい静寂な世界は、この先どんな景色を見せてくれるのだろうか。
「エンタメを載せたEV」BMW・i7
BMW「i7」。航続可能距離は最大約600km。
上記のEQSでは、新時代のラグジュアリーカーはどんな景色を見せてくれるのか?と問うたが、その解答例のひとつとして、BMW「i7」が提示してくれたような“エンタテインメント”があるかもしれない。
なにしろ先述の通り車内が静寂になれば、特に音響環境はエンジン車時代より格段に良くなるからだ。
だからi7は、イギリスの高級オーディオメーカー「バウワース&ウィルキンス」に依頼し、計39個ものスピーカーを用いたダイヤモンド・サラウンド・サウンドシステムを用意。
さらに、Amazon Fire TVを搭載した31インチの「BMWシアタースクリーン」を後席に設定した。
31インチの「BMWシアタースクリーン」
AppleのiMac(24インチ)よりデカいディスプレイが天井から現れる車内も凄いけど、それでストリーミングでも何でも、映像を良質な音ともに楽しめるなんて、新時代ならではかもしれない。
そういえばソニーも電気自動車に参入した理由のひとつはエンタテインメントだし、今後は電気自動車のマスト条件になる、かも!?
「150kW充電」を進めるアウディ・Q4 e-tronとVW・ID.4
アウディ「Q4 40e-tron」。航続可能距離は最大576km
2022年11月に販売が開始されたアウディ「Q4 e-tron」と、フォルクスワーゲン「ID.4」。
これまでは「電気自動車もガソリン車も作れる」というプラットフォーム(車の骨格)が多かったけれど、両ブランド初の「電気自動車しか作らない」という専用プラットフォームを採用した電気自動車だ。
上記メルセデス・ベンツ「EQS」や「RQE」もそうだし、トヨタ「bZ4X」や日産「アリア」……と、電気自動車時代に向けてギアがひとつ上がった感じだ。
そうやって電気自動車が当たり前になっていくと、「充電待ちが心配」という人もいるだろう。確かに今でも、休日のSAでは1回30分の急速充電器の前で列をなす車を見ることがある。
それを解決する方法のひとつが「150kW」の急速充電器の普及だ。SAにある急速充電器は50kWや90kW。
例えれば、水を出す蛇口が“細い”のだ。これは従来の電気自動車が、そんなに大食いじゃなかったことなどが要因。
フォルクスワーゲン「ID.4」。プロローンチエディションで航続可能距離は最大561km、ライトローンチエディションで最大388km。
しかし世の中は急速に進み、1回の満充電で500km走れることが当たり前に。
そこで蛇口が太くて、速く一気に水ならぬ電気を流せる「150kW」の急速充電器を、ポルシェとアウディ、フォルクスワーゲンの3社が共同で推し進めることになった。
例えば100km走るための充電時間は、50kWなら約20分かかるが、150kWなら約6.5分で済むという(アウディのスポーツカー「e-tron GT」の場合)。
ちなみにテスラの急速充電器「スーパーチャージャー」は120kWで、最近250kWも登場してきて話題になっている。
一方で電気自動車側も“大きな蛇口”に対応できなければその恩恵を享受できない。航続可能距離だけでなく、充電環境の進化からも目が離せなそうだ。