これは間違った解釈ですが、世間一般ではこのようにパワハラが理解されていることが多いと感じます。部下がパワハラと感じたらパワハラになってしまえば、業務が正しく進まない可能性が発生します。
「セクハラ」は受けた人間がセクハラと感じればセクハラに認定される可能性が高くなりますが、パワハラについては、そんなことはありません。厚生労働省のパワハラの定義について(2012年)には次のような記載があります。「業務上適正な範囲を超えない指示、注意、指導、命令等はたとえ相手が不満を感じたりしてもパワーハラスメントには当たらない」となっているのです。
しかし、多くの人たちが「パワハラと感じればパワハラになる」と思っているのはセクハラの定義と混同されているのではないでしょうか? 皆さんの中で「部下から言われたらパワハラになる」と考えていた方がいたら、ここで違いを正してくださいね。業務の範囲の指示、注意、指導、命令などは、パワハラにはならないのです。
パワハラを正確に理解しよう
上司たるもの、まずは「パワハラ」を正確に理解する必要があります。
「今までは、セクハラもパワハラもごちゃごちゃ言われることはなかったのに、生きにくい世の中になりましたね」などの声を現場で聞くことも多々あります。しかし、時代は変わり、企業として、個人として「ハラスメント」に向き合うことが必須となったのです。
では、セクハラとパワハラの違いを見てみましょう。
セクハラとパワハラは似たものと言われていますが、大きな違いがあります。それは、セクハラは被害を受けた者が「セクハラを受けた」と感じれば、セクハラとなります。
しかし、パワハラは客観的な事実に基づいて、判断されるのです。それは、上司の口調が厳しくて、部下が「パワハラ」と感じても「業務指導の範囲内」であれば、パワハラに該当しないのです。これに関する裁判があります。
[国・品川労基署長事件 東京地裁 令和元年8月19日]
・社員Aは上司から「パワーハラスメントを受けた」と主張した。
・これにより、抑うつ状態・適応障害を発病し休業に至ったと主張した。
・そして、所轄の品川労働基準監督署長に対し、労災法の休業補償給付の請求をした。
・しかし、労基署は、「業務が原因で発症したのではない」と判断し、休業補償給付を支給しないと判断した。
・Aは、この決定に納得がいかず、不服申し立てをしたが、労災保険審査官も不支給処分の審査請求について棄却の決定をした。
・そのため、Aは処分の取消しを求めて裁判を起こした。
そして、裁判所は以下の判断を下したのです。
・Aが業務をできるようになるまで上司が根気強く指導する中で、「あほ」など口調が厳しくなったが業務指導の範囲内であり、仮に逸脱する部分があったとしても嫌がらせなどとはいえない。
・本件の疾病は、業務上の疾病には当たらず、不支給処分は、いずれも適法であると判断した。
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