この裁判を詳しく見ていきましょう。
上司である課長は、Aに対し、「君の考えはどうなんだ?」「君がどうしたいっていうのはないの?」などと同じ質問を繰り返していた。それとともに、「ふざけんなおまえ」「あほ」と述べるなど、時折、厳しい口調で指導していた事実は認められました。
しかし、Aが単純な計算を誤ったり、課長の話を聞かず、要領を得ない回答を繰り返したりしたためでした。そして、課長の指導の口調が厳しくなる場面があったのです。それから、Aが自分で計算できるようになるまで、根気強く指導がされていたことが認められ、病気の発症は業務上の疾病には当たらないと判断されたのです。
パワハラの認定で、指導の範囲内か、または、逸脱して違法か、の判断は微妙な問題です。そして、個別具体的な裁判上の証拠調べの結果にゆだねられることが多いです。しかし、パワハラの違法性は、セクハラと異なり「主観」ではなく、指導での業務範囲の「大幅な逸脱が認められるか?」が要件となります。
とくに「相手に対して、人格否定を行う」ことが、パワハラと認められるポイントとなります。この境界線を意識して、ハラスメント対策を行うことが重要となりますので、みなさんの会社でも対策を立てるときは、このことを意識しましょう。
業務とは? 業務の範囲とは?
パワハラを考えることは、業務とは何か? そして、業務の範囲はどこまでなのか? を突き止めることです。厚生労働省の定義によると、「業務上必要かつ相当な範囲を超えた」言動とは、次のような記載がありました。
社会通念に照らし、当該言動が明らかに当該事業主の業務上必要性がない、またはその態様が相当でないものを指します。
(例)
・業務上明らかに必要性のない言動
・業務の目的を大きく逸脱した言動
・業務を遂行するための手段として不適当な言動
・当該行為の回数、行為者の数等、その態様や手段が社会通念に照らして許容される範囲を超える言動
(出典:厚生労働省 あかるい職場応援団HP、ハラスメントの定義より)
この定義をみると、業務上の関わりがある言動であれば、「よっぽど」のことがない限りパワハラには該当しないと考えられます。よく言われるのが「相手への人権侵害」の有無でパワハラかパワハラでないかの判断に左右されます。
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