言葉③「何かを変えるために必要なのは続けること。短期的な下心では何も変えられない」
Q:羽根田さんは「言葉」を大切にしていると聞きました。どのような思いから言葉を意識するようになったのですか? 最初は、機会を頂いたインタビューの一つ一つがカヌーの普及や、認知度の拡大につながると思ってお受けしていたんですけど、東京オリンピックに向かっていく中で、インタビュアーの方が掘り下げてくださるわけです。
掘り下げていただいて自分の中で口に出すことで整理されていきますし、質問していただいたことで自分が気づかされることもたくさんあったので、そういった意味でメンタルトレーニングだと思ってお受けするようになったんです。
Q:言葉を大事にしてきたキャリアを振り返って、コーチから言われた言葉や、教わった言葉、印象に残っている言葉はありますか? スロバキア語で、「トマーチャーロ」っていう言葉です。直訳すると、「それが醍醐味なんだ」とか「それが味があるんだよ」っていう言葉なんですけど、スロバキア人のコーチがこれを僕に言ったのは、大雨が降っている時で、練習に行くと大雨が降っていて寒い。
彼はこの大雨、強風に対して「これは自然の素晴らしさだね」と五体で満喫していたんですよね。要するに、意識の違いで何事もポジティブに捉えることができるんだと、この「トマーチャーロ」で感じたので、自分の中ですごく大きな気づきになりました。
自分がハナから嫌なもの、悪いものだと決めつけたものが、ちょっと自分の中で見方が変わったりするようになりました。
Q:羽根田さんの背中を見てカヌーを始めた選手も少なくありません。「次の世代の後輩に伝えたい言葉は」と聞かれたら、どのような言葉が頭に浮かびますか? 何かを変えてほしいですね。何かを変えてみせるっていう気概をもって、過ごしていってほしいですね。
変えることの素晴らしさというか、それを感じたのがリオオリンピックの決勝の時に、僕が暫定3位でずっとレースが進んでいって、最後のドイツ人の本当に世界ランク1位の選手がいたんですけど、彼が最終走者で表彰台は僕と彼の一騎打ち。彼が乗るか、僕が落ちるかっていう戦いだったのですが、彼がゴールした時点で彼が5位で、僕が3位のまま残った。
その3の数字で自分の全てが報われたというか、それこそ高校生の時からスロバキア行ってから、そこから10年なので、それが全部報われて、それを支えてくれた人たちのエネルギーと時間、全てが実を結んだ瞬間で、その瞬間の素晴らしさを自分は身をもって体験してるので、この体験をぜひたくさんの若者たちにしてほしいなと思います。
Q:何かを変えるためには、あらためて何が必要でしょうか。 続けることですね。続けないと本当に何も、何にも変えられないので。短期的な下心だけじゃ何も変わらないので。下心抜きで続けることですね。じゃないと大抵のことは多分変わらないんじゃないかなと、自分への戒めを込めて思います。
Q:最後に、羽根田さんの次の目標、どんな未来を描いているのか教えてください。 パリ五輪が再来年に控えているので、そこまでは競技に集中して過ごして行きたいと思います。東京オリンピックはいろんな意味でも、自分にとって大きな経験になったので、また自分に問いを続けながら、自分の道を探していければいいなと思っています。
羽根田卓也(はねだ・たくや)- ミキハウス所属 1987年7月17日、愛知県豊田市生まれ。小3の時に元カヌー選手の父邦彦さんに勧められて競技を始める。杜若高卒業前に父に留学を直訴し、06年3月から強国スロバキアに渡り、09年から地元のコメニウス大(体育大)大学院に在籍しながら練習を続ける。2014年の世界選手権で5位、同年のアジア大会では金メダルを獲得。2016年のリオデジャネイロ五輪ではアジア人として初めて銅メダルを獲得した。身長175センチ、体重70キロ。