シンプルで、かつ淡い色づかいがボルボ自社製品の特徴とするスカンジナビアデザイン(筆者撮影)
もうひとつ、注目したい安全技術が、車内のセンシング機能。クルマの登場に先立ってコンセプトが発表され、日本のメディアでも話題になったのは、幼い子どもやペットなどの置き去りを防ぐコンセプトゆえだ。
7つのセンサー(これは巧妙に隠した、とインテリアデザイナーが語っていた)が前席から荷室にかけて天井に取り付けてある。アルゴリズムを用いて、わずかな動きを”正常”か”異常”か、判断するのだそう。
床で寝てしまっていたり、ベビークリブのなかでブランケットをかけられていたりしても、「かすかな動きとして検知する」(ボルボの技術担当者)という。そうすると、ドアロック時に警告が出るそうだ。
車両内に生命がある場合、コンピューターはそれを認識していて、車内温度が規定以上に上がると、エアコンを作動させる。「大きなバッテリー搭載の電気自動車だから可能な安全装備です」と、ボルボの広報担当者は教えてくれた。
満充電の航続距離は600キロに
EX90の車両諸元は完全に公開されておらず、モデルラインナップも未定。高性能モデルだけ少々紹介されていて、111キロワット時と大容量の駆動用バッテリーに、ボルボが「ツインモーター」と呼ぶ前後1基ずつのモーターによる全輪駆動だそう。最高出力は380kW(517ps)、最大トルクは910Nmとされている。
アンペア数の高い急速充電システムを使えば、0パーセントから80パーセントまでの充電にかかる時間は30分以下。満充電での航続距離は、600キロに達する。バイディレクショナルといって、いわゆるビークルトゥホーム、つまり給電機能もそなえている。これもボルボとしては初採用。
デザインは、私の印象としては、基本的にXC90を踏襲していると感じられた。ウインドウグラフィクス(サイドウインドウの輪郭)のせいかもしれない。しかし、デザインを統括するヘッドオブグローバルデザイン&UX(ユーザーエクスペリエンス)のロビン・ペイジ氏は、より進化しているのです、と言う。
「電気自動車専用のアーキテクチャーを使うことで、理想のプロポーションを実現できました。車輪と車体の関係など、内燃機関や変速機がなくなったことは、デザインにとって大きなメリットです」。
メインライト点灯時はピクセルライトが上下に隠れていき中央のヘッドランプが現れる光学的な演出(写真:Volvo Cars)
ユニークな特徴は、フロントマスクだ。あえて、内燃機関につきもののラジエターグリルを廃することで電気自動車のイメージを強調。ヘッドランプもLEDで構成されたマトリックスタイプ。
近年のボルボ車に共通する、「トール(神が持つ)ハマー」型は継承されているが、コンセプトは斬新だ。メインのヘッドランプが点灯するときは、2段のマトリックスライトが上下に消えていき、奥からヘッドランプが現れるといった、ユニークなイメージ(光学的な印象)を作っている。ペイジ氏はこれを「目を開ける」と表現。
内装面では、ボルボがつねに大事にしてきた「スカンジナビアデザイン」(カラー&マトリクス担当シニアデザインマネージャー、セシリア・スターク氏)を活かしている。基本的なコンセプトは、従来の継承だ。
動物由来の素材を追放し、新開発の合成皮革を使用
北欧の光のような淡い色を使った内装色を、シート地やドアの内張りに使い、ウッドパネルもドリフトウッドといって海岸に漂着した木のイメージでテカりを抑えている。
加えて今回から動物由来の素材を追放。ウール混紡のファブリックや、新開発の合成皮革を使う。感触や見た目は、じゅうぶん、快適で、ぜいたくとすら言える。家具やファッションの流れに呼応するものだ。
室内照明も、考えかたはボルボらしいというか、他社とちがう。ドアの内側のパネルを透かして照明がほんのり灯る。赤や青や緑を使うドイツ車とは完璧に一線を画している。
「ボルボの規模の会社が生き残っていくには、大きな競合と真っ正面から向き合っていてはむずかしい。この会社の独自性が、すべてにわたって求められているのです」。前出のスターク氏はそう解説してくれた。
EX90の生産は北米と中国で。北米で生産が始まるのは2023年からで、欧州での発売は早くても同年の後半という。日本での発売はそのあとで、現時点では「未定」(日本法人の広報担当者)だそうだ。