「ルミノール」のマッシブなデザインコードを厳守しつつ、新たなデュアルタイム表示を採用した2022年モデル。中央から伸びる先端が三角マーカーの針でそれを示し、5時位置には扇状のパワーリザーブインジケーターを備える。「ルミノール ビテンポ」SSケース、44mm幅、自動巻き。130万6800円/パネライ(オフィチーネ パネライ 0120-18-7110)
▶︎すべての画像を見る 大ぶりなクッションケースと頑強なリュウズプロテクター。名作「ルミノール」の特徴であるタフなルックスは、まさしくパネライの力強い歩みと同調している。
1860年の設立から程なくして、イタリア海軍に海戦用照準器などの精密機器を納品。1916年には暗い海中でも発光するラジウム塗料を開発し、計器のダイヤルに塗布して視認性を高めた。これがパネライの原点「ラジオミール」の誕生につながる。
リュウズの誤操作を防ぎ、耐久性を高めるリュウズプロテクターは、1940代後半のモデルが初出。現行の「ルミノール」コレクションでも採用される象徴的なディテールだ。
ただし、科学の進歩によってしだいに放射性物質を含むラジウムの安全性が懸念されるように。そこで一躍主役に躍り出たのが、ルミノールという人体に害のない発光素材だ。
つまり、今でこそブランドの主力コレクションとなった「ルミノール」だが、当初はあくまで素材名を意味したもの。
ちなみにパネライは’49年にルミノールの名称で特許を取得したが、実際にラジウムの有害性が実証されたのは’60年頃から。開発力と先見の明には驚かされる。
ラジウムの使用禁止に先駆け、1949年1月にルミノールという名称の特許を取得。実際の証明書も現存する。その約10年後、ルミノールは無害と認定されたのだった。
以降もイタリア海軍との蜜月は続き、時計のほか手首着用型の水深計やコンパスなどの機器を作製。それらの根幹をなすルミノールをはじめ、パネライの開発は軍事機密として長く門外不出だった。
実際、一般市場への参入を決めたのは’93年からと、130年以上続く老舗の扉が開かれたのはごく最近の出来事なのだ。
イタリア海軍の深い関係性は、時計以外のさまざまなプロダクトからも垣間見られる。腕に巻く水中コンパス(写真)のほか、水深計や水中信号灯なども開発した。
あまりの高性能がゆえに、軍が外部漏洩を恐れたパネライの神髄。そのすべてを腕元で享受できる幸福を、今改めて噛み締めたい。