もちろん、優れた作品は往々にして「敵対者」の魅力が高い。これは1990年代の週刊少年ジャンプのヒット作全体に言えることでもあろう。しかしスラムダンクほど、敵対者たちが憎々しくないのも珍しいのではないか。最後の対戦相手である山王高校は少し異なるが、陵南や海南大附属など、主役にもなれそうなキャラばかりである。
湘北と同じように、それぞれの高校において素敵な先輩後輩関係があり、ライバル校にはライバル校の物語があると思える。スラムダンクに出てくるライバルたちは、敵対者でありつつ、1つの物語を共に作る協力者でもある。視点が変われば、陵南や海南大附属も主人公になりうるのだ。そのフラクタル(相似的)な広がりが、見ていてうれしくなるし、スラムダンクの世界観の特徴と言えるだろう。
『SLAM DUNK』では挫折こそが美しい
スラムダンクのストーリーとしての魅力は、単に桜木花道が天才的に活躍することだけではない。周りのキャラクターもそれぞれの役割を果たし、誰一人無駄なキャラクターがいないこと。そして時には勝負に負けたとしても、勝利や敗北を越えたものの美しさを描いていることが最大の魅力と言える。
読者の記憶に残っているのも、単にミラクルプレイが炸裂した瞬間や、勝負に勝った瞬間でなく、悔し涙の美しさや、長い時を経て報われる瞬間ではないだろうか。
例えば、単行本8巻の#71で三井が「バスケをしたいです」と泣くシーン。あるいは、15巻の#131で試合に負けた直後、コートで桜木が男泣きをするシーン。そういった敗北や挫折の瞬間が美しく描かれたシーンがスラムダンクにはたくさんある。
個人的に好きなのは、29巻の#252の安西先生のシーンだ。桜木の活躍を見ながら「見てるか谷沢……お前を超える逸材がここにいるのだ……!!」とつぶやく1コマがある。かつて鬼コーチと呼ばれた安西先生が、それゆえ失ったもの、自分が間違っていたのかと問い続けた、積年の思いが昇華される瞬間だ。
そうやって勝利の瞬間だけにカタルシスがあるのではなく、もがいている最中や負けた瞬間にも感動があるのがスラムダンクの魅力と言えるだろう。
同様にコートの外から主人公たちを見守る視線にもわれわれは感情移入できる。晴子やマネジャーの彩子、あるいは桜木の不良仲間たちだ。私は水戸洋平というサブリーダー格の男が特に好きだ。彼が単なる取り巻きではなく、凛とした存在として描かれ、遠くから花道の成長を見守っている姿はとても印象に残っている。
4/5