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会場のひとつ三星毛糸(岐阜県羽島市)では、本物の羊がいたり、芝生の上でジンギスカン料理を食べたり、若い子も家族連れもみんなお祭りのように楽しんでいました。産地の課題など難しいこともたくさんあると思いますが、お客さんにとって間口は楽しく広くあるべきだと思います。

でもやっぱり本物の技術をどう世に出していくといいのか、エンタメ界にいる僕なりにとても考えさせられました。

産地と音楽業界、課題の共通点


地元・一宮市の宮田毛織工業を見学するSEAMO

地元・一宮市の宮田毛織工業を見学するSEAMO


──工場見学を通じてどんなことを感じましたか。

SEAMO:大人の事情で大々的には言えないそうですが、尾州産地にルイヴィトンやコムデギャルソンなどファッションブランドの生地を作っている会社が多く存在することにびっくりしましたね。耐熱の「燃えない繊維」やストレッチジーンズなど繊維のテクノロジーにも驚きました。工場の端っこで紹介されているような技術がめちゃくちゃすごいんです。もっとメインストリートで、みんなに見てほしいなと思いました。
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産地の課題は、僕ら音楽業界にも通じるところがあるんです。

ファストファッションが流行してきたように、音楽の現場でも配信やサブスクなどが当たり前になり、ひとつひとつの音楽の価値が下がっています。若者たちはバズることを目的に「歌ってみた」動画やYouTube、TikTokなどで曲を量産している現状がある。以前のように、一曲入魂することが減っています。そして聴く側もそれで良いというようになってしまっています。「TikTokでバズらせるため15秒で聞きどころを盛り込んで」みたいなリクエストもありますが、本来音楽は物語に最初と最後のオチがあるように一曲のうちにストーリーがある。丁寧に作り込むにはすごく時間がかかる作業なんです。

じゃあ、僕たちはどうすべきか?

いい音楽を作るしかない。本物を追求するしかないんですよ。そしたら本物のお客さんが必ずついてくる。お手軽に作られたものは淘汰されていきますよ。

:僕らが向き合っている課題と本当に同じですね。

SEAMO:ただ、SNSを通じた発信や売り方はいまの時代に合わせてやらなきゃと思います。熱い思いをどう表現し、伝えていくか。

迷ったり悩んだりすることはたくさんあります。だけど、先人が作ってきた過去に戻ると答えが見えてくると思います。尾州産地でも、工場で生地が作られる工程を見て、本物の人たちがつくる「本物」と出会えた。そんな出会いが広がるといいですね。

:最近、さまざまなイベントで「尾州」の名前をよくいろんな場所で聞くようになりました。「ひつじサミットやってたよね」と言われ「先日のはひつじサミットじゃないんですよ」と答えることも。しかし、どの企画も目指しているところは同じ。色々なアプローチから「尾州」というワードが少しずつ広がり、興味を持つ人が増えていってほしいです。
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──SEAMOさんはひつじサミットのオリジナルソング『紡ぐ』も発表し、地元の子どもたちのコーラスを歌に乗せました。どんな思いを込めましたか。



SEAMO:いろんな世代の人たち、特に若い子に尾州の素晴らしい技術と文化を伝えていかなきゃいけない。世界に誇れるカルチャーがあるんだ、地元を背負ってこの街のためになりたい、そう思ってくれるといいなと思いました。

歌詞には「かよわき糸」という言葉が何度も出てきますが、工場では昔ながらのレトロな製法で糸が紡がれているのを見ました。切れそうな弱い糸がくるくると回って、力強く大きな一本の撚り糸になっていくのが印象的でした。
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:尾州産地には古くから歴史があるけれど、産業全体的に元気がなくなってきている中で、私たち世代は未来を見て存続していかなくてはなりません。そんな立場への応援歌でもあると感じました。

尾州ウールは世界に誇れる文化 守るべきもの


ひつじサミット尾州オリジナルソング『紡ぐ』オフィシャルムービーから

ひつじサミット尾州オリジナルソング『紡ぐ』オフィシャルムービーから


──「繊維の街から発信するカルチャー」というのは、SEAMOさんならではの表現だと思います。

SEAMO:HIPHOPってなんですか?と聞かれた時「音楽のジャンルです」と「文化です」という2種類の答え方があると思います。

尾州のことを聞かれたら「性能のいい糸やウールの素材の産地です」と「この地域のカルチャー、文化です」と説明するのと同じ。国技や歌舞伎、伝統工芸を保護するのと同じように、尾州の生地や繊維も守っていくべきものだと感じています。尾州ウール産地で働く人たちが誇りを持って働き続けるために、国や自治体がしっかりとバックアップすべきだと思いますね。世界に誇れる文化だともっと世に知られるべきだと思っています。

:尾州産地の大きな課題として、作り手と使い手の距離が離れていることが挙げられます。糸や生地までを手がける企業が多く、その先の商品の完成品まで知らされないこともあります。その距離感を埋めるためにどうしたら良いか、解決策のひとつとしてひつじサミットがあります。イベントをやるからすぐ企業が潤うということはなかなかないんです。

ですが、作り手と使い手が繋がり、SEAMOさんに作っていただいた歌のように、尾州の確かな技術をカルチャーとして次世代に繋いでいく。特に子どもたちには服ができるまでに多くの人が関わっていて、ものづくりにはストーリーがあることを知ってほしいです。そこから1着の服を大切にする気持ちや産地への愛着が生まれてくると思います。

一方で、参加企業にとっては、イベントを通じて生き残るために何を改善していけばいいか振り返る機会になれば良いと考えています。
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