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挑戦することそれがすべての原動力

全日本チーム時代の恩師、サービスマンの伊藤裕樹さんが、単身南米で戦う佐々木の応援に駆けつけた。これも佐々木の人徳だ。©️ Yusuke Abe

全日本チーム時代の恩師、サービスマンの伊藤裕樹さんが、単身南米で戦う佐々木の応援に駆けつけた。これも佐々木の人徳だ。©️ Yusuke Abe


復帰を決めてから5カ月経った8月下旬、南米で行われたアルペンスキーレースに出場した佐々木は、男子回転競技で2連勝を飾った。公式戦としては下部カテゴリーだったが、8年間のブランクを乗り越え、40歳からの再挑戦としては、上々の滑り出しといえた。

だが、この先はカテゴリーを上げたレースを戦ったうえでワールドカップ出場権をつかみ、最後は現役の日本代表選手を相手に五輪代表入りを勝ち取る必要がある。それはどう考えても、非常に厳しい道のりだ。

「当然、焦りはあります。ただ、そうなることはわかっていたので、焦ったときにどうするかというトレーニングも積んできました。

それは“Whyトレーニング”といって、どう勝ちたいのかではなく、なぜ勝ちたいのかという『なぜ? 』を掘り起こすメンタルトレーニングです。それを繰り返すと、今、やるべきことが明確になってきます。

例えば、スタートに立ったときにトップでゴールする姿を思い描くより、目の前の1旗門目をどうくぐるかのほうがよほど大事で、そこがおろそかになると大事なものを失います。そこをわかったうえでの再挑戦ですからね」。

スキー技術はさびついていなかったが、世界の進化は想像以上だった。だが、追いつく糸口は既に見つかっているという。

スキー技術はさびついていなかったが、世界の進化は想像以上だった。だが、追いつく糸口は既に見つかっているという。


さらに、今の佐々木を支えているのは、クラウドファンディングでレース資金を支援してくれた1600人を超えるサポーターの存在だ。

「応援というのは得体の知れない力を与えてくれます。応援してくれる方がいるからこそ、絶対にコースアウトしないって踏ん張れるんです。ゴールまでの道筋はクールなほうがいいに決まっていますが、でも、恥ずかしくても何でも、がむしゃらにいくしかありません」。

以前と違って、今の佐々木にはナショナルチームという環境も、スポンサーからの潤沢なサポートもなく、自らエアチケットを取り、ホテルとレンタカーを自分で手配しながらレースを転戦している。それでも、各国チームが共同でのトレーニング環境を提供してくれているという。

それはアキラササキというかつてのトップレーサーの記憶もさることながら、ストイックな姿を微塵も見せない普段の佐々木の人懐っこい性格のなせる業。そして40歳からの再挑戦という破格のチャレンジへのリスペクトに違いない。

「この8年間、徹底的に遊ぶことに挑戦してきたら、また火が付いてしまったというわけです。年を取るどころか、自分の息子と同じ2006年生まれの高校1年生と一緒のデビューですよ。ちょっと若返りすぎたかな。

俺の場合は挑戦すること。それがすべてなんです。楽しくて、難しくて、やり甲斐があって、ひょっとしたらゴールにたどりつける。それが俺の原動力というか。まあ、がんばるしかないですね。全力で」。
スキーヤー 佐々木 明 Age 41●1981年生まれ。3歳でスキーを始め、19歳の世界選手権で世界デビュー。アルペンW杯で計3度の2位になったのはアジア人最高位。2022年から8年ぶりにレースに復帰し、’26年冬季五輪ミラノ・コルティナダンペッツォ大会の出場を目指す。


HIRO KIMURA(W)=写真 Yusuke Abe=写真(P.38) 寺倉 力=文

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