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海外にも似た事例があります。それは、「バドワイザー」です。著名なビールで「Budweiser」と書いたほうが見慣れているかもしれません。

現在のバドワイザーは、「のどごしが……」「キレが……」「うまさが……」といったビールの美味しさを伝えるアプローチだけをしているわけではありません。

人々の交流に貢献する、ビールの役割と取り組み

バドワイザーが掲げているのは、「人々を集めるために、我々は存在する(We exist to bring people together)」。

つまり、バドワイザーは、ビールは美味しさを味わうためや飲んで気持ちよくなるためのものだけではなく、人と人の関係性をつくる、人々をつなぐためのものというアプローチを始めているのです。

そのためバドワイザーは、コロナ禍の自粛期間の頃から、次のような取り組みを続けていました。
・休業中のジムトレーナーによるエクササイズ動画の配信
・休業中のシェフによる料理スクール動画の配信
・オンライン飲み会の企画
・バー・レストランの再開支援
以上は、あくまで代表的なものです。

バドワイザーが訴えるビールの果たす本質的な役割は、人々が集まり、交流することで「オキシトシン的な幸福」に貢献することなのです。

こうした取り組みを、みなさんはどのようにお感じになったでしょうか。

「よく聞く、ファンビジネス、リピータービジネスの例だよね」と思った人もいるかもしれません。しかし、私がみなさんにお伝えしたいのは、単に消費者を囲い込むためのテクニックではありません。

オキシトシン的幸福である人と人とのつながりに着目したビジネスが消費者の支持を得ている、その背景にある価値観の変化について知っていただきたいのです。

それは、世界レベルで「幸せ」の定義が変わってきていること。それが、たまたま「ビール」という商品を通じて表現されたにすぎないということです。

「幸せの定義」のアップデートがビールにも影響

近年、世界的に「持続可能性」がキーワードになっています。

SDGsはその代表例ですが、あくまで「社会」の持続可能性でした。私が着目しているのは「個人」が持続可能な人生を求めるムーブメントです。人生100年と言われていますが、そのためには、心身ともに健康であることが重要です。寝たきりで100年生きても、あるいはひとりぼっちで誰ともつながれないまま孤独に長生きしても、幸福とは言えないかもしれません。

そこで今、注目されている価値観が「ウェルビーイング」です。

ウェルビーイングとは「体も心も元気で、社会との関係も良好である状態」のことを言います。 無理をせず 「自分らしく、心も体も健やかに」生きることに重きをおく新たな人生観、新時代の「幸せ」の定義です。

アメリカやヨーロッパでは普遍的な概念になりつつあり、日本でも2021年2月に国会の予算委員会で、国民1人当たりのウェルビーイング・幸福充実度を測る新しい物差しとして「GDW/国内総充実度」の採用が提唱されました。

日本にも、本格的にウェルビーイングの概念が広まりつつあります。

ヤッホーブルーイングにしても、バドワイザーにしても、家族や大切な仲間と一緒に過ごす時間を大切にする「オキシトシン的な幸福」が重視されています。「心のヘルスケア」に寄与するものです。

「幸福」のあり方の変化が、先進的な商品やサービスの変化に如実に現れてきているわけです。バドワイザーもヤッホーブルーイングも「ウェルビーイング」をビジネスにしていると言っても過言ではありません。


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