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2022.11.09

ライフ

合羽橋リブランディングの立役者「釜浅商店」店主が見つけた自らの使命とは

株式会社釜浅商店 代表取締役 熊澤大介

株式会社釜浅商店 代表取締役 熊澤大介

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東京・合羽橋道具街に店を構える料理道具専門店、釜浅商店の店主、熊澤大介さん。

熊澤さんは1908年創業という老舗の暖簾を受け継ぐ4代目だ。

そんな熊澤さんに料理道具や合羽橋への想いを伺った。

日本の伝統である「良理道具」を伝えていくことが使命

「やっぱり中華鍋じゃないですかね。炒め、茹で、あと揚げ物もできて、セイロがあれば蒸すこともできる。これ、すごく便利なんです。

何より、チャーハンを作るにしてもあの鍋でガーッって料理していると不思議とテンションが上がるんです。いい筋トレにもなるのでおすすめですよ(笑)」。

料理初心者の男性におすすめの料理道具について訊くと、熊澤は身振り手振りを交えながら語る。料理好きで、食べることも大好きな熊澤のFUN-TIMEはやはり食事。

「今いちばん楽しいと感じるときは、いくら遠い場所であっても美味しいものを食べに行くことです。観光とは違い、ただ食べるために現地へ向かう。贅沢ですがそれがすごく楽しくて。

鮮度の問題で都内では食べられない、また現地の天然水や店に併設した畑で栽培した素材など、その土地にしかないものを最先端の調理法を駆使し、料理として表現されているんです。

料理も大満足ですが、そういった料理人たちの丁寧な仕事ぶりを見ていると単純に楽しいですし、刺激になります」。

また自らハンドルを握り、ドライブを兼ねて遠出をするのもFUNな瞬間のひとつ。愛車はメルセデス・ベンツ GLS。

「昔から神奈川・鎌倉が好きで、季節に関係なく週末など時間があるときに家族みんなでよく行きます。いつも決まって訪れる、しらす屋に寄って買い物をしたり、海沿いを散歩したりする時間が楽しいです」。



熊澤が代表を務める釜浅商店は、おもに釜を販売する熊澤鋳物店として1908年に創業を開始した料理道具店。包丁や鍋、フライパンなど料理道具を中心にあらゆるキッチン回りのアイテムを販売している。

100年以上も歴史を誇る老舗ともなると、後継ぎとしてのプレッシャーもありそうだが、熊澤は「なぜかなかったですね、全然」とあっけらかんと語る。

「僕はひとりっ子なので、後を継ぐことは何となくわかっていました。父からは25歳になったら店に入れと言われていましたが、当時はそんな気はなくて。でも結果的に25歳で入ることになったのですが、それは無理やりとかではないんです。

昔からファッションやカルチャーが好きで、仕事もインテリア関係の会社で働いていましたが、料理道具店という仕事でも、そこに関わることができると思ったからなんです。

あと、家業自体が純粋に楽しそうだなって思ったので自然と戻ってきました」。

楽しそうという思いとは逆に、実際に現場に立つと多くの難題に直面したと言う。

「僕が子供の頃の東京・合羽橋って、いつでも賑わっていたんです。でも今はネットで何でも揃う時代ですからね。街が年々静かになっていく中、このまま同じことをやっていたら先がないと思って、2011年にリブランディングを行いました」。

リブランディングという言葉は今でこそ世間に浸透しているが、当時は耳慣れない言葉。ともすれば100年以上続く店が潰れる可能性もあっただけに、断行するにはそれなりの勇気がいる。

熊澤は「最初は怖かったですね」と、神妙な面持ちで当時を振り返る。

「経済的に余裕もなかったですし、とにかく不安でした。作業は僕とデザイナーさんとふたりで、店舗の内外装からコンセプトにいたるまで、膝を突き合わせて議論を重ねながら進めていったのですが、大変だったのは店を変えるということを、社員に伝えることでした。

彼らの中には、これまで社員としてやってきたことがすべて否定されるのではないかという不安があったので。そうではなく、今までやってきたことをよりわかりやすくお客さまに伝えるために変えるのだと説明しました。

リブランディングをしてからは、それまでは見られなかった一般の方や外国人のお客さまが多く訪れるようになり、結果が出たことで納得してくれたような気がします」。

リブランディングの中で生まれたのが「良理道具」という言葉。

「デザイナーさんと話している中で生まれた言葉です。ブランドコンセプトを決める際、「うちは料理道具店なので〜」と、僕が“料理道具”という言葉を頻繁に使っていたんです。

厨房機器やキッチンツールとかではなく料理道具。ちゃんと手に持って、手入れをしながら長く使うことで、自分に馴染み良い道具に育っていくっていう。

そこには理由があって、理由があるからこそ長く使い続けていける。そこからこの“良理道具”が生まれました」。

熊澤には、そんな“良い「理(ことわり)」のある道具”を使って、かなえたい夢があるという。

「調理場を、全部うちの料理道具で揃えた飯屋をやりたいです。自分が尊敬する料理人の方を招いて、うちにしかない一流の料理道具を用いて、渾身の料理を作っていただくっていう。これはいつか実現させたいと思っています」。

インタビュー終了後、席を立ち改めて熊澤を見ると、黒シャツの上からでもわかるほど大胸筋と三角筋の隆起が際立っていた。週3で通っているというジムトレーニングの成果が如実に表れているが「ただ太っているだけですよ」とご謙遜。

そんな熊澤に、プライベートで新たにチャレンジしたいことを訊いてみた。やはりそれは食にまつわること。

「料理ですね。もともとすごく好きなのですが、最近はやる機会が減ってきてしまったので。子供たちも手が離れたし、自分の時間ができてきているので、また本格的に料理に取り組みたいです。それこそ、プロ向けの料理本に出てくるうようなレシピに挑戦したいですね。まずは中華鍋を使う料理から始めようかな」。

中華鍋とオタマを持ち、炒めているかのような仕草を見せながらそう話すと、「あっ」と何かに気付いた様子。右手で左肩をさすりながら。

「先ほどの話じゃないですが、もしかしたらこの筋肉、過去に中華鍋で料理を作ったときに生まれた“中華鍋筋トレ”の賜物かも(笑)」。

料理中の音も最高、もちろん味も美味しい。何より筋肉もつく!? という“中華鍋筋トレ”。もしかしたらオーシャンズ世代の間にも流行るかもしれない!?


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