──プロビジョンズの製品の一つに、日本酒の「五人娘」がある。なぜプロビジョンズ商品に日本酒を含めようと思ったのか? スタンリー:23世代にわたって家族で営む蔵で山廃仕込みで作られたこの日本酒の味が大好きになったんだ。農薬を使わずに栽培した米を使っていて、より風味を引き立たせる、現在はほとんど忘れ去られそうな伝統的な方法を採用していて、これらは環境に配慮されている。
パタゴニアのアウトドアウェア事業は日本で30年以上展開している。われわれは、日本のカスタマーは高品質を求めていると考えていて、日本の求める質を提供することが、ウェア事業においての目標であり、今や、それがプロビジョンの目標にもなっている。また、日本の食事は世界的に見ても最も健康的なものの一つだしね。
tim davis(c)2022 Patagonia, Inc.
──プロビジョンズの今後のビジネス展開の考え方について教えてほしい。 スタンリー:私はイヴォンのおいで、若い時にパタゴニアのビジネスに関わった。最初は短い間だけ働いてお金を貯めたら、旅したいと思っていたよ。
私はアスリートではなくライターだが、クライマーやサーファーのカルチャーが好きだし、われわれの生み出す製品の質を誇りに思っている。
小さな会社だったパタゴニアが成長できたのは、われわれの理念によってであって、従来のビジネス拡大の方法に従ったからではない。プロビジョンズもそのもっとも良い例だ。
われわれは過去何十年にもわたって環境への負荷を最小化しようとしてきたが、どの産業のプロセスも還元するよりも多くを地球から奪ってきた。プロビジョンズには、この潮流を変える可能性がある。
パタゴニア全体の将来を考える上で私は、人間が作り出してきた問題を解決する製品を生み出していくこと、そして、より良い生き方を創出すること、これらがノーススター(ビジネスにおいて正しい方向を知るための目印)だと考えている。
(c)2022 Patagonia, Inc.
イヴォン・シュイナード氏が、アスリートとしてのクライミングのみに打ち込んでいた若い時期を経て経営者になり、新しい自分の生き方に自信を持てるようになるのは、簡単ではなかったようだ。実に35年もかかったという。同氏の著書『
新版 社員をサーフィンに行かせよう』(ダイヤモンド社刊)の中に、このようなくだりがある。
「ビジネスを始めて35年、ようやく、なぜこんなことをしているのかがわかった。環境活動に寄付をしたいという気持ちにうそはない。だがそれ以上に、私は、パタゴニアでモデルを確立したかった。我々のピトンやアイスアックスが他メーカーのお手本となったように、環境経営や持続可能性について考えようとする企業がお手本にできるモデルを確立したかった」。
世界的な成功を収めているパタゴニアの創業者でも、経営者としてのアイデンティティを自分の中で確立するのはこんなに時間がかかったことを思うと、転換期にあって迷いながら進むことに勇気をもらえる気がしてくる。
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