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言葉②「執着せずに生きること。壁ではなく山だと考えれば、登るのも難しくない」



Q:北見さんの歩みを知る上でも、まずは、ご自身が理事、お父様が館長を務めているこの茶道会館(※このインタビューを行った場所)について教えて頂けますか?

私の曾祖父が、元々仏師・建築家で、で、この茶道会館はもともと神社として建てて、祖父が宮司をやっていたんです。ところが戦争で焼けてしまって、焼け野原になった。それで曽祖父が「まずは心の復旧だ」と。

戦争で焼け野原になって、その心をいかに復旧するかっていうことで茶の道場を建てたのです。そして私が四代目で今、理事長をしている。目的は、日本文化の普及や、お茶文化を次に伝えていくということですね。



Q:生まれながらにお茶が目の前にあり、将来的にそれを教える立場になることを意識されていたと思うのですが、文化を伝えるという仕事をどのように捉えているのですか?

もう生活の一部で、仕事やビジネスではないですし、自分の運命って言うと言い過ぎですけど、お茶を教えるのが生活であり、この環境、この家を守るのが生活ですよね。

京都の家元のところで4年間修行をしたのですが、その頃から先生になることを意識して、お茶のお点前をどうするかとかいうことよりも、「どうやって教えるか」を考えたり、やっぱり心の意識の方が強かったですかね。



Q:文化を引き継いでいくという重責を担われているわけですが、重圧や難しさは感じますか?

それが執着ですよね。執着してはいけないのです。「こんな大きいもの」って他の事を考えたら、もっと大きい人だったりがいるじゃないですか。そうしたら「自分、なんでこんな小さいんだ」ってなるわけです。そう考えたら、そう思う新しい心が生ずるわけです。だから、それだけのことですよね。

Q:頭でっかちに何か1つの考えに固執してはいけないと?

そうです。1つのことに意識を持ちすぎるんだったら、新しいこと、新しい思いを持った方がいいのです。もしくは、他のものと比較することでまた新しい心が生ずるわけです。新しい心が生まれるから、そちらの方に行けばいい。

ただし、執着することも、比較していることも大事なことなのです。「すぐ忘れたらいいや」じゃなくて、忘れたことは大事に思わなきゃいけない。だから、その執着が壁だとして、その壁を乗り越えたら、乗り越えたことも絶対に大事だということです。



Q:ビジネスの世界にも共通する話だと思うのですが、目標に向かって進んでいる中で、壁に直面することがあります。どういう意識でそこに立ち向かっていけばいいのでしょうか?

それも同じですよね。その壁のことを忘れることです。壁のことを忘れれば、新しいことが生まれるんです。だからまず忘れること。忘れられないんだったら、忘れられないってことがまず壁なわけです。

だから、それすら忘れてくる。そうすれば、どんどん小さくなりますから。上に登っていったら、その存在も小さくて全然見えなくなるじゃないですか。

Q:壁と捉えるか山と捉えるかで考え方が変わると?

全然違いますよ。もし心が弱ってる人に言うんだったら、「壁ではなく山だ」って言えば乗り越えられますよね。その先があるのだから、壁を登っても上からの眺めって絶壁ですからね。その景色は、山とはまた違いますから。



Q:最後に、北見さんが現在大切にしている言葉を教えてください。

「謝茶」っていう、感謝の謝にお茶の茶で、謝茶ですね。お茶がなかったら、今、この場はありませんから。

それと「糸」。私たち日本人は糸をみんな出してるんですよ。系図だったり、昔学校であった連絡網とかね。みんなそうやって糸で繋がってるようなイメージですね。その糸を「結ぶ」というのが吉でしょう。

でも、糸をお互い引っ張り合うと切れてしまう。その半分の力っていうのが、糸へんに半で『絆』なんですよね。「糸」は、面白いなと思っていますね。



[Profile]北見宗幸(きたみ・そうこう)●1972年東京都生まれ。一般社団法人茶道文化振興会理事長。東京・高田馬場にある「茶道会館」講師。裏千家茶道教授。講演などを通して茶道の文化を伝えつつ、テレビやCMなどでも活躍。雑誌「和楽」(小学館)などの連載でも人気を集めている。佐渡・鈍翁茶会の監修もしている。


記事提供:The Wordway

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