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2022.08.31

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参加費28万円でも売り切れ。登頂がすべてではない「グラマラス富士登山」という愉しみ方

星のや富士 グラマラス富士登山

星のや富士 グラマラス富士登山


当記事は「Forbes JAPAN」の提供記事です。元記事はこちら


日本の山と言えば富士山だ。

念願の世界遺産登録から今年で10年、国際的な観光名所としての価値を高めるべく、登山道や周辺エリアの整備も進んできた。この数年はコロナ禍で閉山や人数制限など影響を受けたが、今年は晴れてフル稼働の登山シーズンを迎えている。

登山すべてに共通するかもしれないが、こと富士登山においては特に、「登頂」がゴールで、そこで「御来光」を拝むことが最上のプランのように語られがちだ。しかし、装備不足や強行スケジュールによって体調を崩すケースも多く、登頂率が平均50%という実態もある。

そんななか、日本初のグランピングリゾート「星のや富士」では、ラグジュアリーで安心な登山をうたう「グラマラス富士登山」を開催。富士登山のプロフェッショナルが協力する限定プログラムは、参加費28万円(宿泊費別)という高額ながら、毎年完売しているという。
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富士登山という「文化」に触れる

2泊3日のグラマラス富士登山は、富士山麓にある星のや富士へのチェックイン後、「御師」の家を訪ねるところから始まる。御師とは「御祈祷師」のことで、登山に挑む修行者や信仰者に宿泊や食事の世話するほか、神職に近い立場として、登山の無事を願う祈祷を行う存在だ。

御師の家では「牛王刷り」を体験

御師の家では「牛王刷り」を体験


1500年代に始まり、最盛期は江戸時代。車も電車もなく、100km以上離れた江戸から始まる富士登山は時間もお金もかかるため、各地の信仰者たちは「富士講」という団体を作り、資金を出し合い、交代で登山に訪れていたという。「多い日で1日100人が宿泊していました」と語るのは、「菊谷坊」17代目の秋山真一さん。菊谷坊は現存する13軒の御師のひとつだ。

「女性の登山は禁じられていたのですが、江戸時代に頭を丸め、男性を装って登頂した女性がいるんです。“高山タツ”さんと言うんですが、まさに名の通り。また、昔は水や食料を自分で持たず、荷物を背負って道案内をする“強力さん”を雇っていました。お金がかかるわけですよね」

歴史や文化を学んだ後、かつて登山者がお守りとして白装束に施していたという「牛王刷り」を体験し、登山道へと続く北口本宮冨士浅間神社に参拝。青々とした木々に囲まれた境内には、富士講の開祖・角行(1541-1646年)の史跡のほか、偉業とされる「33回登頂」や「雪中登山」を達成した人々の石碑が並んでいた。
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実は、グラマラス富士登山の準備は1カ月前から始まっている。というのも、このプログラムは地元のガイド「富士山登山学校ごうりき」がサポートしており、体調管理と装備品の両面について、事前に電話やメールでカウンセリングを受けることができる。

「富士山登山学校ごうりき」代表 近藤光一さん(写真提供=株式会社合力)

「富士山登山学校ごうりき」代表 近藤光一さん(写真提供=株式会社合力)


登山前日には、700回以上の登頂経験があるごうりきの代表、近藤光一さんがキャビン(星のや富士の部屋)を訪れ、装備の点検やレクチャーを行い、わずかな不安も解消してくれる。

夕食は、星のや富士流の「御師料理」だ。山梨県の郷土料理を参考に料理長が開発したもので、たっぷりの野菜やきのこ、鶏肉を豆乳味噌鍋で楽しみ、〆のうどんでエネルギーをチャージ。その後、体力や時間に余裕があれば、敷地内で開かれる“森の演奏会”や“バスソルトづくり”も楽しめる。

星のや富士流 御師料理

星のや富士流 御師料理


登山客はなぜ減った?

登山当日は、グランピング感満載の「モーニングBOX」をテラスで楽しみ、10時にチェックアウト。グラマラス富士登山は安全第一の“日中登山”のため、昼前に富士吉田口に集合するゆとりあるスケジュールだ。
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標高2305mの5合目では、周辺を散策したり、昼食をとったりして、1時間半ほど高地順応をする。近藤さんと合流し、最後の装備点検をしたら、いざ出発。この日のゴールは7合目、標高約3000mにある山小屋「東洋館」。約4時間の登山だ。

歩くペース、足運びのコツ、呼吸、水分補給のタイミング……ふとした疑問は、尋ねる前に近藤さんがアドバイスしてくれる。そのほか、富士山の自然や歴史、他の登山道との違い、世界からの評価などの話題が絶えない。「会話をしながら一歩一歩踏み出していると着くんですよ」と近藤さん。

そんななか、ひとつ興味深い質問を投げかけられた。

「登山客の数は、私が独立した20年前に最多で1日1万人、世界遺産登録時には6000人、最近では4000人へと減少しています(富士吉田ルートのみの人数)。なぜでしょうか?」

世界遺産となり、外国人も含めて増えたかと思いきや、意外な事実だ。なかでも若者が少なくなっているというが、「モノよりコト消費」を好むとされる世代の実態とも異なる。弾丸登山自粛の呼びかけが成功しているからだろか。何が原因か、考えながらの登山が続く。
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