工業デザイナー マックス・ビル●1908年生まれ、スイス出身。彫金の修業後、デッサウのバウハウスで学ぶ。画家、彫刻家、建築家、グラフィックや工業デザイナーなど多岐にわたって活躍し、“バウハウス最後の巨匠”と称される。スイス人として時計との関わりも深い。
▶︎すべての画像を見る 美術と建築に関するドイツの教育機関、バウハウスをひと括りに語るのは難しい。
多彩な文化、芸術のジャンルに加え、ふたつの大戦に翻弄され、本拠地もヴァイマール、デッサウ、ベルリンと流転。1919年の開校からわずか14年後の’33年に閉校となり、その遺伝子は世界へと散った。
そして本国でバウハウス復興の象徴となったのが’55年に開校したウルム造形大学。その初代学長を務めたのがマックス・ビルである。
自身も工業デザイナーとして作品を手掛け、厳正な秩序に基づく構成と精度を極めた造形は、まさにドイツ工業製品のイメージに重なる。その代表作のひとつがユンハンスで発表した時計シリーズだ。
’56年のキッチンクロックをはじめ、翌年発表の壁掛けクロック、’61年にはこのデザインを腕時計へと展開した。
「マックス・ビル バイ ユンハンス オートマティック」滑らかなドーム型風防に、ケース全面に広げたダイヤルには計器のような緻密なスケールが刻まれ、機能美が漂う。程良いサイズ感に、オリジナルにはないカレンダーの小窓が加えられたが、全体の調和は決して崩さない。SSケース、38mm径、自動巻き。20万9000円/ユンハンス (ユーロパッション 03-5295-0411)
長短の時分針は、数字やバーインデックスの末端を指すとともに、細く長い秒針を組み合わせ、美しさと視認性を両立する。独自の書体など細部まで美学が息づくデザインに目を奪われることだろう。
本来のクロックを腕時計まで縮小しながらも機能に齟齬はなく、これも完成されたデザインの証しだ。
マックス・ビルは、きわめて小さいものから都市にいたるまですべての対象に“グーテ・フォルム(良い形態)”の実現を目指した。その哲学に出会い、時計はより美しい時を刻むのだ。