ピッキオ 田中純平(入社15年目)
当記事は「星野リゾート」の提供記事です。元記事はこちら。 人と自然が豊かに共生する、軽井沢星野エリア。「日本野鳥の会」創設者の中西悟堂氏が足繁く訪れ、「日本三大野鳥生息地」と紹介した地でもありますが、1974年には隣接する森が国設の「軽井沢野鳥の森」に指定されるなど、自然を楽しむ文化が脈々と受け継がれてきたエリアです。
この地の自然を守ることと、自然を利用することをセットで考えるエコツーリズムを体現してきたのが“ピッキオ” (イタリア語でキツツキの意味)です。
1992年の設立以来、四季折々の自然体験ツアーを開催してきました。同時に、軽井沢の自然の象徴でもあるツキノワグマの保護管理に取り組み、リゾートの枠組みを超えた活動を行っています。
今回は個性的なスタッフのなかでも、格別に熱い想いで「人の安全を守ること」と「軽井沢のクマを絶滅させないこと」に、命がけで取り組んでいる、ピッキオ唯一の髭男(!)、田中純平に迫ります。
クマと人の関係。どんな風に守っているの?
クマを餌付かせない。そのためにクマが開けられないゴミ箱から開発
もともと、軽井沢はその半分が鳥獣保護区。ツキノワグマの生息地でもあります。田中がこの地にやってくる前の1999年には、「クマにゴミ箱を荒らされた」という通報が129件もありました。
「残飯で餌付けされてしまうことが、クマと人との距離を縮めているのではないか」と考えた田中は「絶対に荒らされないゴミ箱」の開発を思いつきます。
2002年にはプロトタイプを設置。更に改良し、さんざん荒らされていた場所に2004年に1台目を設置。2009年にはクマの行動圏にあるすべての公共ゴミ箱を交換し、被害はゼロになったのです。
これだけでまずゴミ捨て場での人とクマの遭遇は無くなりました。(ツキノワグマ保護管理活動|ピッキオ)
「ここに出てきちゃいけないよ」とクマに教える工夫
別荘地が増えるにつれ、人とクマの生息地はオーバーラップします。田中たちの仕事に終わりはありません。
「被害件数は減りましたが、クマが残す足跡や糞はゼロにはならない。できる限り、目撃件数を低くするのが、今の僕たちの仕事。クマたちに『ここに出てきちゃいけないよ』と教えることなんです」。
クマが冬眠から覚める4月下旬から、田中たちは、だんだん忙しくなります。別荘地周辺で捕獲したクマには電波発信器をつけ、なるべく遠くへ放す。
そして、電波を追跡して行動を監視。人里近くにやって来そうなときは、ベアドッグ(クマ対策犬)を使って、森の奥へ追い払う。これらを10月頃まで続けます。
長野県からの要請で、シカやイノシシ用の罠に誤ってひっかかったクマを森に返すこともあります。
人にも「クマとの関係性」を伝えていく
田中は、5年前から地元の小学校ですべての学年に年間一コマずつ「クマと人との関係」を教える授業をもっています。
「1頭たりとも駆除すべきではない」という考えでも、「出没したら即、駆除」という考えでもなく、みなさんにバランスのよい自然観をもってもらいたいんです。
だから、楽しい話もすれば、家屋に侵入してしまって駆除されたクマの話をすることもあります。最悪の事態も教えていくべきだと思っています」。
今はとてもいい状態だという田中。「森を歩くときは鈴をつけてください。クマは基本、怖がりなので、その音で寄ってきません。もしもクマに遭遇したら慌てず静かにその場を去ることです」。
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