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旅行嫌いは原体験から? 家族旅行と修学旅行を改革せよ

星野 未だに日本では「旅行に行ってる場合じゃないよ」と言われ、旅行に行く心理的なハードルがある。ストレスの高い人はメンタルヘルスツーリズムに、能力を向上させたい人にはポジティブツーリズムにと、ちゃんと旅行に行ってもらうことを企業に定着させたいですが。

小口 それにはいくつか方法があります。一つが従業員のストレスチェックです。近年、常時50名以上いる事業場では、メンタルヘルスをチェックすることが義務付けられました。ところがストレスを解消する具体的な方法は明らかにされていません。

メンタルヘルスツーリズムで回復、もしくはポジティブツーリズムで予防を、との道筋を示していけると、一つの解消法を定着させることができるでしょう。

ところが、企業の上層部の方々は、ハードな競争を勝ち抜いてきたので、非常にタフでバイタリティーにあふれている。だからストレスのたまった社員を旅に行かせようとすると「遊んでくるの?」という発想になってしまいがちです。

星野 たしかに。

小口 二つ目としては、旅行に行くことが嫌いな人が一定の割合でいることです。この人たちが旅行に前向きになるよう、働きかけなければいけないのです。

星野 全く旅行していない人っているからね。旅行のことが嫌いな人ってなんだろう。過去に非常に嫌な経験をしたのかもしれないね。

小口 私が思うに、修学旅行が良くないことが多いのではないでしょうか。

星野 旅行の原体験みたいな話でしょうか。

小口 私は星野さんと同じ長野県生まれで学年が一つ下の同世代なのですが、修学旅行は中学が京都、奈良をくるくる回っておしまい、高校も同じだったんですよ。高校のときは自由行動もありましたが、特に面白いとは感じませんでした。

星野 この業界に入って、修学旅行の話をあちこちで聞いていると、とにかく先生方の保守性が強くて。いろんなことを提案しているのだけれど、予測がつかないことをさせたくないらしく、新しいところにも行きたがらない。ずーっと同じところへ行って、無事に終わらせたい感覚ですね。

小口 せっかくのチャンスを逃していますよね。もったいない。

星野 メンタルツーリズムの話をしていたら、修学旅行の批判になっちゃった(笑)。



小口 旅行は能力を伸ばすものだと思っているので。ただ、修学旅行も観るから、体験するへ、少しずつ変わってきてはいます。中には、極めて意欲的なプログラムを行っている学校もあるのです。

たとえば、シンガポールに3泊4日で行かせて、現地の高校生の前でプレゼンさせるのです。そのためにはプレゼンの中身はもちろん、英語でのプレゼンの仕方も身につけないといけない。そして向こうの人たちと一緒に交流する。こうしたプログラムは、生徒の能力、意欲を非常に伸ばすと思います。

星野 すごく思い出にもなるし、成功体験にもなるでしょうね。若者の旅行への参加率をあげるために、家族旅行や修学旅行改革も必要ですね。ひょっとすると、旅嫌いな人の中には家族旅行の最悪な思い出がある人もいるかもしれない(笑)。

小口 実は能力の向上というところで、家族旅行も大事なんです。小学生の子どもたちが家族旅行で海外に行くことでどれくらい能力が伸びるかを調べると、実際に、子どもたちの能力は伸びていました。それによって、親はリラックスできたという連鎖が生まれていたのです。

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星野 学校教育の違いがあって、韓国のように家族旅行を教育の一環としてみている国もありますね。つまり、家族旅行を理由に学校を休むことに寛容なんです。韓国ではそれを推奨していて、その代わり、帰ってきたら旅行の内容を作文で提出させているようです。

小口 出国率が日本よりも韓国の方が遥かに高いのは、そうした制度が理由の一つかもしれませんね。

星野 北欧もそうかな。家族旅行で国内の観光地に行かせているのですね。実際にそこへ行ってみるってすごく重要じゃないですか。日本でも、家族旅行がもっと重要視されるようになるといいですね。

<後編に続く>
[Profile]小口孝司●立教大学 現代心理学部 教授。博士(社会学)。東京大学大学院 社会学研究科博士課程修了後、昭和女子大学、千葉大学などを経て、現職。パデュー大学客員研究員、ジェームスクック大学客員教授などを務める。Journal of Travel & Tourism Marketingなどの国際学術誌の編集者、Asia Pacific Tourism Associationの日本代表等を務めている。専門は観光心理学、社会心理学、産業·組織心理学。主な著書に『観光の社会心理学』(北大路書房)、『よくわかる社会心理学』(ナツメ社)、『仕事のスキル―自分を活かし、職場を変える―』(北大路書房)等があり、『影響力の武器』(誠信書房)などの翻訳にも関わっている。


記事提供:星野リゾート

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