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和牛のレザーを使う理由は?

 

ブランド設立の準備期間をかけて開発した「ハイ・デンシティ・ジャージー」を使用。コットンと伸縮性に優れたポリエステルを交編し、ハイゲージで編み立てる。その生地を、経年黄変せず汚れが落ちやすいような加工で仕上げた。白はずっと白く、黒はずっと黒く。その色みが持続可能なTシャツなのである。各1万1000円/タンジェネット mitsuruyoshiya@gmail.com


タンジェネットを代表するアイテムは3つ。「ハイ・デンシティ・ジャージー」と呼ばれる素材を使った白と黒のTシャツ(写真上)と、テンセル素材の白のシャツ(写真下)である。

コットンライクな質感とテンセルならではのドレープを兼備するシャツ。このシャツも東海染工にて、美しい白が続く仕上げ加工を施している。2万2000円

コットンライクな質感とテンセルならではのドレープを兼備するシャツ。このシャツも東海染工にて、美しい白が続く仕上げ加工を施している。2万2000円/タンジェネット mitsuruyoshiya@gmail.com


「僕自身の、いちばん廃棄サイクルの短い服が白Tと白シャツだったんです。着用と洗濯を繰り返すうちに黄ばみ、襟裏や袖裏は黒ずんでいく。また黒Tはいつの間にか色褪せる。

そうなると、いい大人が着るのはみっともないから捨ててしまいますよね。だから、この3つのアイテムを少しでも長く着られるようにしたいと思ったんです」。

タンジェネットの定番シャツ素材の原料となるのが、ユーカリの木。殺虫剤や化学肥料を使わず育てることができる、環境負荷の少ない植物だ。

タンジェネットの定番シャツ素材の原料となるのが、ユーカリの木。殺虫剤や化学肥料を使わず育てることができる、環境負荷の少ない植物だ。


どんどん難解に、複雑になっていくように感じる昨今のサステナブル事情。リサイクル素材・新素材の開発、環境団体へのドネーション、自治体と連携して取り組むアップサイクルといった話題は巷間常に飛び交っている。

そんな状況で吉屋さんのシンプルな考えを聞くと、やっぱりそうだよな、根本はそこだよな、と素直に思う。こちらの考え方もシンプルになるのだ。

[左]「ハイ・デンシティ・ジャージー」の編み機。創業90年という福井県の老舗テキスタイルメーカー、広撚(ひろねん)が手掛けている。 [右]「ハイ・デンシティ・ジャージー」の仕上げ加工をはじめ、タンジェネットの多くの素材を手掛けている愛知県名古屋市の東海染工。1982年よりバイオマスボイラーを導入し、業界内でもいち早くCO₂削減に取り組んできた染色加工会社である。

[左]「ハイ・デンシティ・ジャージー」の編み機。創業90年という福井県の老舗テキスタイルメーカー、広撚(ひろねん)が手掛けている。 [右]「ハイ・デンシティ・ジャージー」の仕上げ加工をはじめ、タンジェネットの多くの素材を手掛けている愛知県名古屋市の東海染工。1982年よりバイオマスボイラーを導入し、業界内でもいち早くCO₂削減に取り組んできた染色加工会社である。


「コロナ禍を経てSDGs(持続可能な開発目標)や地球環境に対する意識が高まったのは間違いありません。実際、生地メーカーの合同展ではさまざまな新素材が出展されています。もちろんそれはとても意義のあること。

ただ僕はもう少し違うアプローチで、生活者の実体験に近いところにあるサステナブルに挑戦したかったんです」。

 

和牛の革を使用したライダーズジャケット。重厚だが最初から身体に馴染むしなやかさを備える。16万5000円/タンジェネット mitsuruyoshiya@gmail.com


今季のタンジェネットで注目したいアイテムがある。それが和牛(※1)のレザーを使ったライダーズジャケットだ。

「仕留めた獲物の肉を食べ、残った皮は服や道具を作るのに利用する。人類はそんなことをかれこれ200万年も続けてきたわけです。

そう考えると、今自分たちが美味しく食べている和牛の、その皮を使ってライダーズを作るというのは、とても自然なことではないでしょうか」。

和牛の原皮。この皮を熟練の技術でレザージャケットの素材に仕上げたのは、兵庫県たつの市に拠を構えるごとう製革所。プロユースの野球グローブ用皮革を生産する、高い技術を持つレザーファクトリーだ。

和牛の原皮。この皮を熟練の技術でレザージャケットの素材に仕上げたのは、兵庫県たつの市に拠を構えるごとう製革所。プロユースの野球グローブ用皮革を生産する、高い技術を持つレザーファクトリーだ。


ただし、和牛の皮がアパレル製品に使われることはまずない。なぜなら硬く、比較的傷が多いといわれているから。その高い耐久性から主に野球のグローブなどに利用される。

でも吉屋さんは少々の傷は気にしないという。「牛だって生き物なのだから、僕らと同じように擦り傷くらいあるでしょう」。

その和牛の皮にオイルを染み込ませ、徹底的にほぐし、アパレルの素材として使用可能な柔らかさに仕上げる。そんなことを考えるのはおそらく吉屋さんだけであろうし、それに応えることができるレザーファクトリーの技術こそ、我々が知り、誇るべき日本のもの作りなのだと思う。

先のTシャツやシャツの生地も、そのほかの服に使用されている素材も然りである。


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