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中道:日本の地ビールと、グローバルの共通語であるクラフトビールでは、そもそものスタートが違いますよね。

朝霧:そうですね。日本ではかつて小規模醸造が法律で禁止されていて、それが1994年に改正されたことで、小規模でもビールを作れることになりました。

バブル崩壊後の当時、特に地域の観光業はダメージを受けていました。その状況で、地域の中小企業や個人がビールを作れる環境を整備することで、ビールを新しい観光資源とし、地域経済を元気にするという狙いがありました。観光産業として、メーカーよりも、地域性を前面に出して販売するビジネスモデルが推奨されていましたね。

中道:COEDOビールができたという2006年頃、僕は仕事でポートランドを訪れることが多かったんです。12歳からイギリスで育っているので、「アメリカのビールはまずいもの」という先入観を持っていたのですが、そこでマイクロブルワリーに触れ、アメリカのビールのイメージをガラッと変えられました。今思えば、ちょうど日本でもクラフトビールが出てきた時期だったんですね。

朝霧:ビールは、その本質を食品工業として捉えるか、それとも食文化として捉えるかで、見え方が大きく変わってきます。中道さんのポートランドのお話は、その違いの気づきだったのではないかなと思います。

世界のビール文化は中世のヨーロッパで形作られ、系統としては大きく英国系とベルギー系、ドイツ系、そして比較的新しいチェコにわけられます。

私がビール文化に出会ったのは、学生の頃にバックパッカーでぶらぶらとヨーロッパに行ったときでした。それこそ、英国のパブでビールを頼むときに、ビールの種類の多さに驚き、また当時は“スタイル”という言葉も知らず、まごついてオーダーできないほど。さらに英国とドイツのビールも違うので、地域性の掛け算も面白いなと思いました。

ロンドンのパブの様子(Getty Images)

ロンドンのパブの様子(Getty Images)


クラフトビールと地ビールの違いは、地ビールが”どこ”で作っているかに対し、クラフトビールは、”誰がどうやってどんな想いで作っているか”という、人間起点の話になります。

日本では大量生産で画一的に作るイメージがあるため、地ビールは当初、「癖がある」「品質的に厳しい」という評価がありました。しかし、中世のヨーロッパには当然オートメーションはなく、手作りの世界です。例えばコンビニスイーツとパティシエが一つ一つ丁寧に作るスイーツが別物であるように、ビールも本来そうして楽しまれるべきです。

そのためCOEDOでは、人間起点のものづくりというクラフトマンシップを、アメリカ人の造語であるクラフトビールという言葉で、日本でも理解して楽しんでもらえるよう伝えてきました。全員が共感してくれるかはわからないけれど、「知らずに通り過ぎてしまうにはもったいない」という想いでの再構築でしたね。

中道:話は少し変わりますが、ビールのレシピや作り方を、世界のマイクロブルワリーとシェアしているという話を聞きました。オープンイノベーションそのものと言えそうですが、普通は秘密にしたいポイントだと思います。どのように始まったのでしょうか。

朝霧:レシピの共有は、従来のビール業界ではなかった文脈だと思います。日本でもヨーロッパでも、メーカーの生産工場は基本的には塀が高かったり、柵があったり、入り口で守衛が部外者を断ったり。生産現場は秘密の世界でした。

現在のビール界の“オープンイノベーション”においては、アメリカ西海岸のクラフトビールのカルチャーが中心的な役割を果たしたと言えます。あの地域には、みんなでアイデアを出し合った方がいいという雰囲気が満ち溢れているので、何か新しいことをするときに、ブルワリー同士で共有したり、互いの知識を惜しげもなく出し合ったり。

カリフォルニア州にあるRussian River Brewing(Getty Images)

カリフォルニア州にあるRussian River Brewing(Getty Images)


企業と企業であれば従来、権利はどうか、発明の対価は何か……と契約を結ばないとスタートできなかったと思います。ところが、ミュージシャンがライブのステージでセッションするような感覚で行われ、「ホップはこうがいいんじゃないか」「こういう抽出の仕方はどうか」と、互いがアイデアを持ち寄って新しいものが生まれていく。そして、出来上がったアイデアは誰のものでもなく、共有財産のように扱われ、また繰り返されていくと。

もちろん、日本でいう「秘伝のタレ」や「一子相伝の味」という伝統やそこへのリスペクトも大事ですが、それよりも未来を見て進化をしていく感じでしょうか。あと、クラフトマンシップは属人的なもので、同じレシピや材料でも誰が作るかによって変わるという共通認識があると思います。

中道:それらがクラフトビールを取り巻くカルチャーですよね。

朝霧:はい。複数のブルワリーが集まってビールを作るコラボレーションも、やはりアメリカからスタートしています。そのカルチャーが入ってくるまで、当時の日本の地ビールメーカーの間でもそういった考えはなく、最初は不思議な感覚でした。

現在は、ビール界を中心に、世界で「食」に関しては手作りが見直され、オープンにしてより良くしていこうという変化が起こっています。それも単なる仲良しごっこではなく、みんなで切磋琢磨して盛り上がっていく、オープンイノベーションの雰囲気がどんどん広がっています。

中道:国内はどうですか。

朝霧:国内もそういった雰囲気はあります。技術的な話や困りごとがあれば、醸造担当者同士の意見交換がフラットに行われ、アメリカの事例に倣って日本のブルワリー同士のコラボレーションも一つの方法論になっています。

中道:日本のクラフトビール業界でも、ともに世界戦略を語ったりしますか。

朝霧:海外の文化が日本に入ってきて、みんながそれを面白いと思って取り組んでいるものの、いざ世界のステージに立ったとき、「日本のビールって何なんだ」という思いは、共通して抱いているはずです。


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