▶︎すべての画像を見る 言わずと知れた世界的アーティスト、ケンドリック・ラマー。彼がステージ上で身に着けた超ゴージャスな“いばらの冠”が話題だ。
ティファニーとの仰天コラボレーションアイテムを通じて、彼はいったい何を伝えるのか。恐れ多くも、勝手に深読みしていきたい。
その“いばらの冠”とは、そもそもいかなる代物なのか。
誕生のきっかけは、ラマーと彼のクリエイティブパートナーであるデイヴ・フリーによってもたらされたそうだ。
彼らは、チタンとパヴェダイヤモンドを使ったカスタムメイドクラウンの製造をティファニーに依頼。
熟練の職人たちが約10カ月の期間をかけて作り上げた重さ約200gの完成品には、総カラット数137オーバーという8000石以上のダイヤモンドが散りばめられている。
成功を収めたミュージシャン、特にヒップホップのアーティストが豪華絢爛なアクセサリーを纏うことは、決して珍しいことではない。
ただし、その延長線上とは思えないほどのインパクトが今回の冠にはあった。しかもなぜ、“いばらの冠”である必要があったのか。
“いばらの冠”には多くのメタファーが含まれている。言わずもがな宗教的図柄の象徴として認知されるだけでなく、芸術面での優れた能力、謙虚さ、忍耐力をも示すそうだ。
なるほど、ともに超一流の芸術を生み出すラマーとティファニーを結びつけるアイコンとしてふさわしいのかもしれない。
事実、ティファニーは過去に“いばら”モチーフの傑作を生み出している。それが、1947年に作られた写真のブローチ。
47カラットのサファイヤがK18イエローゴールド製の棘で取り囲まれ、ラマーの冠のイメージソースともなったこのアートピースは、現在ロンドンで開催されているティファニーのブランドエキシビジョンで公開中だ。
話を戻そう。
“いばらの冠”が注目を集めたグラストンベリー・フェスティバル最終日、ラマーは冠の下から血を流しながら楽曲『Savior(救世主)』を披露し、「女性の権利に成功あれ。奴らは君たちを裁き、キリストを裁く」と唄った。
これは、女性の中絶の権利がアメリカ最高裁によって50年ぶりに覆されたことに異を唱えたもの。キリストもまた不当に裁かれたものの象徴であり、ラマーの主張はその苦しみとも同調する。
そしてもうひとつ。最初に述べたように、今回の“いばらの冠”は目もくらむほどのダイヤを乗せた豪奢なものだ。
それはある意味で、理想の女性像とも重なるだろう。少なくとも、表面上を眺めれば。
しかし、他者からの理想の押し付けは、当の本人にとっては不当な苦痛にもなりうる。そう、裏側に隠された棘が深く突き刺さるかのように。そんな根本的な問題こそを、ラマーは訴えているのではないだろうか。
上辺だけでない本当の幸福は、他者から与えられるものではない。
現代に求められる強さの必要性を、奇しくも“与える”者であるキリストのメタファーをもって伝える。その姿はまさに、新しい救世主のありかたなのかもしれない。……と、勝手に深読みした次第。
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