“ぽっちゃり型ミドリムシ”から生まれたバイオ燃料
出雲 そう、核心に迫るバイオ燃料の話をしなきゃいけないので、いいですか。
星野 はい、お願いします。
出雲 私は栄養がバックグラウンドなので、いろんな水たまりからミドリムシを見つけてきて、ミドリムシの身体測定をするんですね。
身長、体重測って、ビタミンCやカルシウムなどの各栄養素がどれぐらい入っているか、ミネラルたっぷりかどうか、食物繊維はどうだって調べるじゃないですか。
そういうのを日々やっているときに、「お前本当にミドリムシか?」というぐらい、どーんとぽっちゃりしているのがいた。それで、こんなにぽっちゃりしているんだし、ビタミンCが他のミドリムシより100倍入っていたら、これはいいなあと思って、いろいろ身体検査したら、何も入っていないんですよね。
ああ、こいつ本当に駄目だと。でも、実は全部油[脂]だったんです。油[脂]なんか分析してもしようがないので、これはちょっと残念だけど“控え”ということで、しまっておいたんです。
それで、15年前にバイオ燃料をやりたいって、当時の新日本石油(現在のENEOS)の担当の方にミドリムシを絞って油が欲しいと言われて。
あのぽっちゃりミドリムシを思い出して「あのミドリムシなら油が多いからいいんじゃないか」と思って渡したら、そのぽっちゃりミドリムシの油は普通の油ではなくとてつもない油だったんです。油の質が違った。
せきね それがジェット燃料に使われる「油」だったんですか?
出雲 そう。すごいピュアな、これジェット燃料の原料に適している質の良い油だったんですよね。そのときに、「ジェット燃料になるんじゃないの?このミドリムシ」と言われて、私はそのとき栄養の勉強しかしてこなかったので、それこそ軽油と重油の違いも知らなかったんですよ。
でも、担当の方ががこれは結構いいぞという話をしてくれたので、じゃ、ちょっとやってみようと。そこからもう急にやる気が出てきて…。
星野 なるほど。そんなきっかけだったんですか。
出雲 そうです。あの時担当の方にに言われなかったら、多分、軽油と重油も知らないぐらいですから。
星野 油がいっぱいのミドリムシ見つけたけど、それがどういうポテンシャルがあるかというのは理解していなかったのが、要望に応えたことをきっかけに、急にそこにチャンスを見出したと。
出雲 そうしたらもう今はヒーローですから、「ぽっちゃりミドリムシ様、すみません!」と言って、一番いい席に座ってもらっています。
ミドリムシは世界中に100種類以上も有ると聞いて、星野氏の興味はそれぞれの役割があるのかと深堀り。
星野 すごいですね。ミドリムシで全く出番がないと思っていたのが、急に世の中の役に立つものだったという。ちなみにミドリムシって、何種類ぐらいあるんですか?
出雲 私が把握している限りで、多分世界で一番把握していますけど、100種類ぐらいいるんですね。
星野 それはもしかすると、一つ一つが何か違った役割を果たせるかもしれないという、そういうポテンシャルを持っている。
出雲 私本当に反省しているんですけど、ぽっちゃりミドリムシに出会うまでは人に対して「できが悪いな」とか思ったことがあったんです。けど、今、どんなことがあっても、「ちょっと待てよ」と思う。
昔、このぽっちゃりミドリムシと出会ったときに、自分はすぐその才能を見抜けなかったと。だから自分の今の尺度だけで何かの良し悪しを決めるのは、それだけは本当に一生やめようと思いました。
星野 なるほど。で、今、石垣島の研究所の方々は、工場でいろんなミドリムシ研究をしていらっしゃるんですね。
出雲 はい。
星野 いろんな、“株”っておっしゃっていましたね。
出雲 はい。そうですね。いろんなシリーズ、株、品種があって、おもしろいんですよ。いろんな種類のミドリムシがいて、さっきのぽっちゃりミドリムシみたいに、このミドリムシはバイオ燃料にいい、このミドリムシはアトピー性皮膚炎とか花粉症とかに良さそうだ、というのがあります。
星野 なるほど。じゃ、どっちかというと、栄養だけじゃなくて、それぞれがどんな特徴があるんだろうかということで新しい分野に。
出雲 そうなんですよ。もういろんな個性を生かしていかなきゃいけないんで。
星野 ちなみに、私が話しちゃいますけど、ミドリムシは推定約5億年生きているという話なので、5億年生きていたら、人間よりもはるかにすごいですよね。それだけ地球上で生き延びてきている。
星野 光合成ができないときも含めて。
出雲 で、普通の植物はみんな動けなくて枯れて死んじゃったんですけど、ミドリムシは「あ、何かこっちにちょっとだけ明かりがある」とか、雲間だってちょっとあるじゃないですか。そういうところに行って光合成して。
5億年生き延びたので、ミドリムシに比べたら赤ちゃんみたいな人間が幾ら考えたってしようがないんですよ。 ミドリムシなしで気候変動対策というのは不可能ですよね。
星野 5億年生き残るというのは、ミドリムシは何か生命力があったということなんですね。
せきね ミドリムシって、人間の中に摂り入れると、今、人生100年時代と言われていますが、これが200年になる可能性もあるということですか?
出雲 200年はちょっとならないんですよ。なぜなら、全ての動物は、心臓の心筋細胞、心臓の拍動する回数というものが決まっていて、それが大体人間で100年から120年なんです。
正確には多分、120歳から150歳ぐらいなんですけど、心臓の鼓動の回数を延ばすということは、ちょっと原理的に難しい。
星野 なるほど、なるほど。面白いですね。心筋細胞というのは、確かに勝手に動き続けているから。
出雲 はい。ネズミも象も人間も大体回数一緒なんですよ。不思議ですよね。もうとにかく、私は当たり前にしたいんですよ。
せきね それは、バイオ燃料を当たり前に使うこと?
出雲 そうです。ミドリムシを使ったバイオ燃料を、皆さんの生活で当たり前にしたいので、飛行機のジェット燃料はできますと。でも、ほかのものは駄目ですというと、ああ、何かミドリムシってちょっと特殊だねってなっちゃうじゃないですか。
ですから、もう飛行機もバスもトラックも車も船も、何だったら普通の農作業のときにやる草刈り機も、とにかくミドリムシでできないことが無い状態にしたい。だから全部です、全部。
せきね それはすごいですね。
<後編に続く>