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小山:松原先生がこれまでに食べた生き物は「カラス、ハクビシン、ヘビ、マンボウなど多数」とのことですが、カラスっておいしいんですか。

松原:カラスは捕まえるのが面倒なわりに、食えるところがないです。すごく痩せていて肉がなくて、血生臭い。ハツのような歯触りのレバーを噛んでいる感じです。

小山:僕、ひとつ不思議だと思うことがあって。家畜は人間から食べられる運命にありますよね。おいしくなければ食べられないわけだから、「おいしくなくなること」こそが家畜の進化ではないかと。

松原:家畜の場合は生殺与奪すべてを人間が掌握しているので、おいしくなくなったら最後、「こいつはダメだ」と潰されて終わって、子孫が残らないんですね。

小山:そうか、子孫を残すところに価値があるのか……。ほかに食べられることによって子孫を残している生き物はいますか。 

松原:植物はだいたいそうですね。花も果実も、動物に食わせる代わりに子孫繁栄も手伝わせている。寄生虫もそう。カマキリに寄生しているハリガネムシというのがいるのですが、大人になるとカマキリを操って水辺に行かせるんです。それでカマキリが溺れた瞬間、ハリガネムシはカマキリから抜け出し、水中で産卵する。生まれた幼生は、カゲロウなどの水生昆虫に寄生する。水生昆虫は大きくなると飛んでいく。その先でカマキリに食われたら大成功です。

小山:すごい! 完全に循環している。

松原:逆にその水生昆虫が魚に食われてもトンボに食われてもダメで、カマキリに食べられないと人生終わりなんです(笑)。

小山:トンボに食われてもダメなんですか。

松原:適合しないので。寄生虫と宿主って、OSとアプリみたいにきっちりマッチしないとダメなんですよ。

小山:カマキリに食べられるラッキーな確率はどれくらいなのでしょうか。

松原:限りなく低いでしょうね。でも、絶滅しない程度にカマキリに食われているんだと思います。(次号に続く)

今月の一皿



小山薫堂のひらめきで開発された「ポテトフライ」。バターのみを溶かし揚げたもので、さっくりして芋の甘みが引き立つ。

blank


都内某所、50人限定の会員制ビストロ「blank」。筆者にとっては「緩いジェントルマンズクラブ」のような、気が置けない仲間と集まる秘密基地。


小山薫堂◎1964年、熊本県生まれ。京都芸術大学副学長。放送作家・脚本家として『世界遺産』『料理の鉄人』『おくりびと』などを手がける。熊本県や京都市など地方創生の企画にも携わり、2025年大阪・関西万博ではテーマ事業プロデューサーを務める。

松原 始◎1969年、奈良県生まれ。動物行動学者、東京大学総合研究博物館特任准教授、京都大学理学博士。研究テーマはカラスの行動と進化。著書に『カラスの教科書』『カラスの補習授業』など。『じつは食べられるいきもの事典』は第2弾も出版された。


小山薫堂=文 金 洋秀=写真
Forbes JAPAN =記事提供

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