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別のルートでサーフィンに参加する方法を見つけた


ナザレス・カワカミ(以下NK) 
こうした素敵な絵のプロには、どうすればなれるのですか。美術学校に通ったのですか。

ジャック・ソレン(以下JS) ブリガムヤング大学でグラフィックデザインを専攻した。副専攻はアントレプレナーシップ(起業家精神)。子供の頃から仲間たちとグラフィティを描いてたから、アートの仕事をしたいっていうのはずっと心にあったけど、具体的なプランはなかったかな。

依頼されて仲間と一緒に壁画を描くこともはときどきあったけど、カンバスには描いてなかった。カンバスでも描くようになったのは最近のことなんだ。

NK 以前は文字だけ?

JS 仲間と描いていたのはレタリングばかりだね。だけど、僕自身はキャラや人物を描くことのほうが好きだったんだ。大型の絵でキャラを描くのが得意だったから、そのおかげでグラフィティからミューラルアートに移行するのも簡単だった。

NK グラフィティアートはなぜやめたんですか?

JS 結婚したから。グラフィティが理由で警察に連れていかれて、奥さんに迎えに来てもらうとか、そういうのはさすがにね。でも、アートは続けたかった。だから実験的にこのスタイルに切り替えてみたら、軌道に乗ったんだよ。これで食えるようになった。

(写真: クリス・ローラー)

(写真: クリス・ローラー)


NK まじめな質問として伺います。自分の作品を気に入っていますか。

JS いい質問だね。毎日それを考えてるよ。僕は飽きっぽいから。サーフアートに行き詰まったら、すぐに別のものを試したくなる。ワシントンで巨大なセイウチを描きたいとは思ってたから、叶ったのはラッキーだった。ありがたいと思ってる。

自分がやりたいものをやれるのは本当に幸運なことだよね。誰かひとりくらいは見て喜んでくれるかもしれない。商業的なこととか、見た人がどう思うかとか、そういうのはあまり気にしてないんだ。

NK サーフィンを描くことで何を目指しているのですか。職業的な目標以外でもいいのですが、何を引き出したいと思っていますか。

JS サーフィンの世界に加わっていたいのは、たぶん子供の頃からの夢なんだ。プロになった仲間もいるけど、僕はそれほどうまくなれなかったから。ノースショアで育って、仲間はスポンサーが付いたりして、評価されてたけど、僕は無理だった。

だから別ルートでサーフィンに参加する方法を見つけたって感じかな。「バンズ・サンセット・プロ」のヴィジュアルアートもやったんだよ! すごかった、まさに夢の実現だよ。サーファーとして出場はしなかったけど、大会全体を飾り立てたんだ。

NK 「飾り立てた」は面白い言い方ですね。

JS ステージにもストリートにも、あとアパレルも、あちこちの僕の作品があったからね。感激だよ!

(写真提供:ジャック・ソレン)

(写真提供:ジャック・ソレン)


NK ハワイ文化と、ハワイ人であることがあなたにとってどれほど大切か、という話をされていましたね。そのことについて、もう少し考えを聞かせてください。

JS とても大切なことなんだ。ハワイの教え、価値観、いろんなハワイらしさを学んで、僕自身の生活に取り込んでいく。現代のハワイに住むハワイの人間として、そうやってハワイの意味とあらためて向き合うことに、大きな意義があると思うから。

作品を通じてそれを示していきたいっていう気持ちもある。たとえばカロ(※訳注 タロイモ)の葉をもっとよく理解して描けるように、勉強しようと思ってる。


(写真提供:ジャック・ソレン)

(写真提供:ジャック・ソレン)


子供の頃はプレステに夢中で、西洋文化にどっぷり浸かっていたけど、大人になった今は、小さいうちからハワイ文化に興味を持っていれば良かったって思うんだ。ハワイらしさがだんだん薄れていくのを実感してて、それがすごく怖い。できるだけ残していきたいんだ。

例えば、うちの子たちにはぜひハワイアン・イマージョンスクール(※訳注 ハワイ語で使ってすべての勉強や生活を過ごす学校)に入ってほしいね。子供の頃から関心を持って、いろんなことを体験してほしい。僕自身もできる限り多くを学ぼうとしてる。ハワイ文化を理解して、評価して、深いリスペクトを示したいんだ。生活でもそうだけど、特に表現活動を通じて。

NK その考えと、あなたが描く絵ハガキぽいハワイのイメージは、どう重なるのですか。いかにもステレオタイプのハワイのイメージに見えますが。

JS 言いたいことはわかるよ。ノスタルジックなイラストを現代風に描き直しているけど、奥底にはいろんな矛盾がある。こういう絵ハガキ風のスタイルとか、ノスタルジックな感じも好きだけど、昔は、こういうイメージの押し付けがハワイ文化に与える影響のことは、あんまりわかってなかった。

実際にハワイでこういうものが売られているわけだし。僕自身こういうのが嫌いじゃないから、複雑だよね。だからすごく考えたり、調べたりして、自画像を描き込んたりしてる。ハワイ文化を貶めてきたこういうイメージのことを、問題提起してるんだよ。

(写真提供:ジャック・ソレン)

(写真提供:ジャック・ソレン)


僕のサーフアートは、尖りすぎない、柔らかいセンスを追求してる。僕の描くキャラに「らしさ」を出したいんだ。ハワイに大勢いるサーフアーティストのひとりになりたいわけじゃない。夕日をバックにしたサーファーのイラストとか、よくある絵と一緒にされたくない。ジャック・ソレン(アーティスト)

(写真提供:ジャック・ソレン)

(写真提供:ジャック・ソレン)


NK ハワイを描くハワイアン・アーティストとして、ハワイに与えられたイメージを正そうとしているのでしょうか。

JS 難しいな。ぶっちゃけ僕は考えすぎるタイプだけど、こういうことを真剣に考えるべきじゃないかって思うし、実際にすごく考えてる。矛盾とか、影響とか。僕のアートが何を言い、何を示すのか、僕自身はそこにどう関わっているのか。世界のこともすごく考える。わかりたいってずっと思ってるんだ。

今でもそうだよ。自分のしてることの答えを見つけたい、理解をしたい。今はまだはっきりわからないけど、それでもいいんだ。わかろうと努力してるから。慌てずにじっくり、作品やリサーチと向き合って、努力してる。長く時間をかけていくものだと思うよ。

(写真: クリス・ローラー)

(写真: クリス・ローラー)


NK 昨今のアーティストの多くは――クリエイティブのジャンルは問いませんが――自分が正しいとは限らない、答えがわかるとは限らない、矛盾だってあるんだ、ということを認められずにいるのではないでしょうか。「こういう理由で自分が正しい」「自分はそのことはわかってる」と言い切れないというのは、人間にとってなかなかつらいものだと思います。

JS 『四つの約束』(※訳注 邦訳はコスモスライブラリーから1999年刊)って本を読んだことある? 読んでよ。すごくいい本なんだ。あの本に、自分は自分でいいって教えられた。答えが出ないままの自分でいてもいいんだって。本気で努力をしてるなら。

僕の仕事や作品について他人に意見を聞くと、ありがたいことだとは思うんだけど、たいてい「すごいよ!」としか言ってもらえない。だから、矛盾のこととか、真っすぐ質問をぶつけてくれるのはうれしいね。僕もいつも考えてることだから。もっと議論したり批判したりしてくべきなんだと思うよ。

NK
批判するのは得意です。

JS 生産的な批判ならね。
This article is provided by “FLUX”. Click here for the original article.

このインタビューは長さと読みやすさを考慮して編集しました。


ナザレス・カワカミ=文 クリス・ローラー=写真
上原裕美子=翻訳

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