OCEANS

SHARE

決して希釈させる事は許さない世界観を持つ試合は年に一度

:格闘家は、体力的のも高齢までずっと続けられる仕事でないと思いますが、時間的なリミットに関して、どのように考えていますか?

青木:今、自分が作りたい世界観を持つ試合は、年に1回くらいかな、と思っています。それは、本当に作りたいものを年3回に拡大した場合、内容が希釈してしまうからです。

:時間とのバランスと自分のクオリティを知る事で、いいバランスで表現していけるわけですね。

青木:そう! 僕は、いつもベストなバランスを追いかけているんです。年齢やキャリアによってもバランスは変化していくものだから。

:それって「アート」の世界ですね。教科書は無いし。

青木:今、僕は38歳なんですが、先輩方は、38歳で教科書的な教えを残していないんですよ。

:なるほど。青木選手が残すものって、これからの格闘技業界で、膨大な資産になるような気がします。

青木:僕は指導者では無いので、「こうしろ、ああしろ」とは言えないけれど、後輩が悩みを打ち明けてくれたら、アドバイスする事は出来ます。

「努力すれば叶う」と口にしない「運がいいだけ」と言う美学

:僕は「べき」という言葉を使わないようにしているのですが、青木さんは、口にしない言葉や大切な言葉など、ありますか?

青木:僕は大事にしている言葉があって「運がいい」と言うようにしています。「努力すれば叶う」とは、絶対口にしてはいけない。聞こえがいいから「努力は裏切らない」と皆よく言いますが、「努力」や「身体的能力」などは、僕ら選手にとっては、必要最低限な要素。

そこから一歩抜きんでて、圧倒的に信じている事やsomethingによって勝ち続けていくわけですから。そういう意味では、アスリートが必ずしも人格者では無いと思います。

:起業家がブームですが、その考え方は、起業家の発想かも知れませんね。僕は、起業家に一番必要なのは「頭がおかしい事」だと思っています。狂っている事。努力すれば叶うという世界観を持ち併せていない。

青木:そうそう! 起業家と格闘家は似ていると思います。

:格闘家、青木真也をリングの上でしか知らない人も多いと思いますが、人生の中で、どのくらい格闘技の事を考えていますか?

青木:いつも、いかなる時も、です! 生きていくうえで、僕は全部格闘技と繋がっているように思っています。何か起こる度に、「これが格闘技だったら」って考えちゃいますから。

:共感します! 僕は、プレゼンテーションする事を生業にしていますが、よく「プレゼンの練習は、いつしますか?」と聞かれますが、「目を開けている間です」と答えてる(笑)。それと同じですね。

青木:基本の考え方がしっかりしていると、本番でぶれないんですよね。だから僕は、試合直前の追い込み練習や、作戦的な行為はしません。



格闘家を「仕事」と捉えず「自分業」こそが本業

:「キャリア」について聞かせて下さい。青木さんは格闘技ひと筋ですが、情報発信など、何か新しいキャリアをお考えですか?

青木:僕は格闘技を「仕事」として捉えていません。「自分業」を全うしているだけです。ブレないから、周りからは、「羨ましい」と言われています(笑)。

強いて言うなら、「自分がこうありたい」という事に対して敏感でありたい。自分なりのカッコよさを追求している最中ですが、「身軽」で生きていきたい。課題は、自分の好きな事を見つけていく事です。

:最後に「ファミリー」について。格闘家は、トレーナーとの関係もあると思いますが。

青木:僕のポリシーは「借りたら返す」。それを実行していけば相手との間で、信頼関係が生まれる。僕は、格闘を「芸事」と呼んでいるのですが、「芸事」を尊重してくれる人とは、誰とでもいい関係が築けます。怪しい人には、踏み込まない。そういうアンテナが鋭敏なのかも知れません。

:博報堂から独立されて、現在The Breakthrough Company GO代表の三浦祟宏さんとの関係は?

青木:三浦さんとは、お付き合いするうちに、彼から格闘技への理解やリクペクトを感じて、いい関係を築いています。三浦、青木の関係でいうと、金銭を発生させると別れなくてはいけなくなる事もあるから「お金は要らないよ」って伝えています。

だから、スポンサーと格闘家の関係ではなく、もっと精神性の高い友人みたいな関係です。僕は、カッコいいと思える事をやっていたい。スポンサーという存在は、令和の今、時代遅れな気がしています。

:確かに。自分の美学を曲げないのって大事ですよね。

青木:最近、感じている事があって。スポーツに挑戦する人って今後増えると思うんです。日本は階級や階層が無いとされているけど、僕は存在すると思う。

学歴やキャリアを超えるのは、スポーツであって、スポーツで抜きん出たら一発逆転が出来る。博打打ったもん勝ち。また、試合中に思うのは、フィリピンやタイなど、社会保障が確立していないから、向こうの選手のハングリー精神がすさまじい。

:ハングリー精神を発揮しなくてはいけない軍隊のトレーニングで、「最も辛いトレーニングは何?」と聞くと「走る事」と返ってくるそうです。時間も距離も決めずに、ただ、やみくもに走る事ほど辛い事は無い、と。集中力を必要とされる格闘技で、「格闘技は、筋力でなく情報量が大切」と以前に青木さんがおっしゃっていましたが、体験した事の情報量ほど、有効なものは無いのでしょうね。

青木:自分が体験した情報量や経験値。これが何よりの財産になりますね。


青木真也◎1983年静岡県生まれ。早稲田大学卒業。日本の総合格闘家、プロレスラー、柔術家。パラエストラ東京/Evolve MMA所属。第8代修斗世界ウェルター級王者。第2代、第6代ONE世界ライト級王者。第2代DREAMライト級王者。寝技や極めの技術に長け、跳関十段、バカサバイバーの異名を持つ。

澤円◎元日本マイクロソフト業務執行役員。圓窓代表取締役。立教大学経済学部卒業後、生命保険会社のIT子会社を経て1997年にマイクロソフト(現・日本マイクロソフト)に入社。情報コンサルタント、プリセールスSE、競合対策専門営業チームマネージャー、クラウドプラットフォーム営業本部長などを歴任し、2011年にマイクロソフトテクノロジーセンターセンター長に就任。業務執行役員を経て、2020年に退社。2006年には、世界中のマイクロソフト社員のなかで卓越した社員にのみビル・ゲイツ氏が授与する「Chairman’s Award」を受賞。


Forbes JAPAN =提供記事

SHARE

次の記事を読み込んでいます。