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オタク同士の深い話が良いデニムを産む原点に

やはり日本の技術を持ってしても、本家を超えることは難しいのだろうか。





「とある仕事で最近、岡山のデニム工場へ行かせてもらいました。そこでは、昔のリーバイスの工場で使われていた古いミシンを、今も当時のまま、修理しながら使い続けてるんです。日本人の性格なんですかね。とことん探求するというのは。だからこそ、これだけ日本にいいヴィンテージの個体が残っていますし、それに近いモノを作れるのでしょう」。

同時に藤原さんは、岡山遠征で「日本のクラフトマンの多面的な技術は素晴らしい」と再認識したようだ。

というのも、オリジナル特有の表情は表現できても、風情やオーラまで纏わせることは至難の技。ただ、”オタク気質”なデニム作りのスペシャリストが仕上げるデニムには舌をまかざるを得ないという。

これまで古着業界に長く携わり、数多のヴィンテージジーンズを目の当たりにしてきた藤原さんですら、やはりその姿勢と技術には拍手を送る。

「あの生地を作るならタテ糸はこうでヨコ糸はこう、あの当時の色落ちを再現するなら染めを何回にしよう……と、とにかくデニムの探究心がスゴい。そりゃ、海外のハイブランドも日本で生地を作るなって思います。僕がお付き合いをさせてもらっているところも、名だたるトップメゾンのデニムを全部縫っていますよ(笑)」。



「以前お邪魔した岡山では、生地屋があり、縫製専門工場があり、染色専門工場がある。それぞれに専門のプロがいるんです。そこに、僕は『こういうデニムを作れませんか?』と自分の持っている500万円のヴィンテージジャケットを持っていきました。

縫製を見てもらうと『これはいけますね』『ここもいけます』『はい、大丈夫ですよ』って、パンパンパンと会話が進んでいく。深いところまでデニムを知り尽くしているんですよ。で、また違うヴィンテージデニムを見せると『これは見たことないですね……』なんて言いながら、またさらなる研究を始める。その飽くなき探究心が本当にスゴい」。



デニムを求める側も、作る側もオタク気質ーー。

だからこそ深いところで共鳴し、妥協なきデニムが生まれる。この好循環こそが、世界から称賛される日本デニムの基盤を支えているのだ。

「僕も今度ブランドを立ち上げるのですが、お願いしようとしている加工業者さんはまたハイレベルな加工技術をお持ちなんですよ。だったらもうとことん難しい課題を出してやろうと、’67年ぐらいのデニムを持っていったんです。もうえげつない色落ち具合で、膝の裏なんてハチノスが二段になっていたのですが、それでも仕上げてきました」。

長年ヴィンテージに魅せられてきた藤原さんだが、だからこそ、それを再現すべく注いできた日本の職人たちの情熱や技術もよく分かっている。

「僕はレプリカが作りたいわけではない」と釘を刺す藤原さん。

「確かに長い年月によるナチュラルな変化を、同じ時をかけずに再現するのは難しい。ただ、それを実現させるために情熱を傾け、技術を発展させてきたジャパンメイドに関わる人たちは賞賛されるべきでしょう。

なにせ、デニムの価値をここまで高めた一翼を彼らは担ってきたわけですから。僕がイメージするデニムを作るとしたら、やはりジャパンメイドでないと難しいでしょうね」。

この春、自身のブランドの発表を控える藤原さん。これまでにないサステイナブルなデニム生地を使ったアイテムを準備しているとのこと。今から期待が膨らむではないか。


伊藤恵一=写真 菊地 亮=取材・文

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