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文句のつけようがないパテック フィリップの代表格


広田 パテック フィリップほど仕上げに力を入れているブランドはないです。一般論で言えば、安い時計は仕上げない。高い時計になると歯車なんかを滑らかに動かすための仕上げをするようになります。そして、さらに上になると機械的な必然性を抜きに、すべてのパーツをきっちり仕上げるわけです。そこまでちゃんとやれるのは数えるほどのブランドしかないんですけどね。パテック フィリップ以外だとヴァシュロン・コンスタンタンとか、A.ランゲ&ゾーネとか。

ケースの磨きも、もちろん職人が手で行う。


安藤 パーツをひとつひとつ丁寧に面取りするようなブランドですね。ほかのパーツの陰に隠れて見えないようなところにまでしっかり気を遣っている。建築家のミース・ファン・デル・ローエじゃないですけど、「神は細部に宿る」を地で行っているというか。前に、ある時計修理職人が言っていたんですが、裏蓋開けて機械を見たときに「キレイだな」と思える時計って、必然的に修理にも力が入るそうです。

広田 最近のパテック フィリップは、仕上げの良さに加えて精度も出るし……。どっかないですかね、文句のつけどころ(笑)。

安藤 そんなパテック フィリップを代表するモデルって何になると思いますか?ノーチラスも人気があるし、個人的にはゴールデン・エリプスもかなり好きなんですが、やっぱりシンプルに王道のカラトラバかなという気もしたり。

広田 カラトラバだと思います。

安藤夏樹さん 安藤夏樹(写真右)●1975年、愛知県生まれ。ラグジュアリーマガジンの編集長を経て、現在はフリーに。「SIHH」や「バーゼルワールド」を毎年取材し、常に自分の買うべき時計を探す。口癖は「散財王に俺はなる!」。


安藤 ひと口にカラトラバと言ってもいろいろなモデルがありますけど、もし広田さんが買うならどれですか?

広田 ちょっと変化球ですが、カラトラバケースに年次カレンダーを搭載したRef.5396ですかね。少し専門的な話になりますが、カレンダー機能を動かすのには、歯車を使うものと、大きなレバーを使うものがあります。前者のほうがレイアウトの自由度は高いんですが、半面、テコの原理が効かないので大きなディスクを回せないという弱点がある。ところが、このRef.5396は歯車を使いながらも大きなディスクを回せているんですよね。見た目は端正なんですけど、その裏にはすごいギミックがある。安藤さんは何が好きですか?

こちらがRef.5396。美しいダイヤルのなかに、この複雑な機械が入っている。パーツのひとつひとつまでが、ため息が出るほど美しい。ホワイトゴールドケース、38.5mm径、自動巻き。523万円/パテック フィリップ(パテック フィリップ ジャパン 03-3255-8109)


安藤 僕は、最も典型的なカラトラバともいえるRef.5196ですかね。96(※Ref.96のこと。通称「クンロク」。1932年に発表された初代カラトラバ)の流れを感じられて、とにかくシンプルなのに存在感があります。

広田 オリジナルの96とはスモールセコンドの位置が違ってますけどね。それにしてもよく考え抜かれています(下の写真が初代カラトラバ)。

こちらが通称「クンロク」と呼ばれた。1932年発表の初代カラトラバ。


96が生まれた1932年当時って、ちょうど懐中時計から腕時計へと移行する頃なんですが、懐中時計が大きくて時間が見やすいのに対し、初代カラトラバって直径が30.5mmしかなかった。普通に考えれば視認性が落ちるんですが、パテック フィリップは、針とインデックスを立体的にすることで影を生み出し、視認性を確保したんです。



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