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ライバルメーカーから電撃移籍した切れ者による「ブライトリング」新戦略
これまで数々の名作クロノグラフを開発してきたブライトリング。“独立系”として知られるこのウォッチブランドのCEOを務めるのは、長年にわたりリシュモングループで重責を担ってきた、当代随一の切れ者である。
ブライトリングとは?
1884年、スイス北西部のサン・ティミエにてレオン・ブライトリングが時計工房を設立。その後、スイス屈指のクロノグラフ計器製作会社として成長する。1915年に独立したプッシュボタン付きの腕時計型クロノグラフを、’42年には回転計算尺を備えた「クロノマット」を発表。名作「ナビタイマー」は’52年に誕生した。航空機産業の黎明期よりパイロットたちの信頼を得てきたメーカーであり、数少ない独立系時計ブランドとしてその名が知られている。
「強豪クラブチームのように勝つためのプレイヤーが必要だ」
時計ファンならば、ブライトリングが航空時計のリーディングブランドであることは知っているはず。ではこの名門の製品ラインナップに、昨年から変化が起きていることはご存じだろうか。その立役者こそ、一昨年CEOに電撃就任したジョージ・カーン氏その人である。
去年のバーゼル ワールドではヘリテージに基づく新コレクション「ナビタイマー 8」を発表。2019年の今年も精力的に製品の拡充を図り、自社の話題のみならず時計業界全体を盛り上げている。はたして彼は何を残し、何を変えるのか。そして、どこに向かうのか。
「歴史こそがブランドの芯を強固にする唯一のものです。世界初の、独立したプッシュボタン付きの腕時計型クロノグラフは我々の手によるもの。
プロのための計器(※1)を作るメーカーという核を変えることはありません。かつてスイスの警察が、クルマの速度計測のために我々のクロノグラフを使ったというエピソードにも誇りを感じています」。
カーン氏が率いる新生ブライトリングは、これまで充実していた「AIR(空)」カテゴリーに加え、「LAND(陸)」と「SEA(海)」というカテゴリーの強化を進めている。その代表的コレクションが、1940年代のデザインを範にとり、街(=陸)での使用を前提としたエレガントな「プレミエ」や、’57年から続くダイバーズウォッチ「スーパーオーシャン」である。
「ずばり、3つの成長戦略を掲げています。1つ目はブランドイメージの向上。
広告戦略(※2)を通じて、我々が今どんなスポーツや団体をサポートしているかをユーザーに伝えます。2つ目は新たな市場への参入。「プレミエ」に代表されるエレガントウォッチの開発がそれに当たります。3つ目は、世界での存在感を今まで以上に高めるということ。具体的にはアメリカ、イギリス、日本、そして中国圏における躍進です」。
他のウォッチブランドで実績を積んできたカーン氏にとって、ライバルのひとつだったブライトリングを率いるというのは、どんな心境なのだろう。
「ブライトリングというブランドを外から眺めていたときも、クロノグラフのヘリテージは貴重だと感じていました。それゆえ何を強化し何を変えていくか、CEO就任時には既に見えていたのです。大好きなサッカーに例えるなら、バルセロナののちにマンチェスター・シティを率いたグアルディオラ監督のようなもの。クラブが変わっても、高みを目指す情熱は変わらない。我々もチャンピオンリーグを勝ち抜くのが目的ですからね(笑)。そのためのプレイヤーは揃っています」。
時計界の名将は、今後のブライトリングをどう導くのだろうか。
「サッカーと違って、ブランドの構築には数十年という時間がかかるもの。今現在のアプローチを根気よく続けていくことが大事です。我々はこれまでも、地道な仕事に情熱を持って取り組んできました。今後はより幅広いテイストのコレクションを用意しつつ、新旧のファンに末長く愛してもらえるモノ作りを続けていきたいですね」。
※1 プロのための計器
ブライトリングの腕時計は全モデルがCOSC(スイスクロノメーター検定協会)の精度基準をクリア。スイス国内で製造される時計のわずか6%しか認定を受けられないという厳しいテストだ。
※2 広告戦略
複数名からなる「スクワッド」というブランドアンバサダーを組織し、あらゆる分野のプロを起用。日本人ではパイロットの室屋義秀、カーレーサーの佐藤琢磨、バイクレーサーの中上貴晶がいる。
髙村将司=文 加瀬友重=編集