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2019.06.09

時計

飾りじゃないのよ、目盛りは。ブライトリング「ナビタイマー」のためになる話


時器放談●マスターピースとされる名作時計の数々。そこから10本を厳選し、そのスゴさを腕時計界の2人の論客、広田雅将と安藤夏樹が言いたい放題、言葉で分解する。7本目はブライトリング「ナビタイマー」。




安藤 僕が時計に興味を持ちはじめた頃、憧れた時計のひとつがブライトリングのナビタイマーでした。もともとパイロットのために作られた時計なので、たくさん目盛りがついていて、とにかく男臭いのがいい。パイロットになりたいと思ったことは一度もないんですけど(笑)。

広田 “漢”はこういう道具感のあるものに惹かれます。

スゴい時計【7】
ブライトリング「ナビタイマー 1 B01 クロノグラフ 43 スペシャルエディション」



日本限定モデルのブライトリング「ナビタイマー 1 B01 クロノグラフ 43 スペシャルエディション」。 現行モデルはクロノメーターの色が初代から変更されているのが特徴。ウイングが配された旧ロゴを採用した日本限定モデル。SSケース、43mm径、自動巻き。104万円/ブライトリング(ブライトリング・ジャパン 03-3436-0011)



安藤 この小さな目盛りの正体である「回転計算尺」は、いまだに使い方もわからないので、僕には完全にオーバースペックなんですが、なんだかとてつもないことが出来そう!という雰囲気がたまりません。ちなみに、広田さんは回転計算尺、使えますか?

広田 ナビタイマーの計算尺の使い方説明書があるから、それを見ながらなら。掛け算とか割り算とか、いろいろできるんです。

安藤 アナログの電卓みたいなイメージですか?

広田 もっとすごい。飛行機の計器が全部ダメになったときにこれひとつあればとりあえず帰ってこられる感じです。

 安藤夏樹(写真右)●1975年、愛知県生まれ。ラグジュアリーマガジンの編集長を経て、現在はフリーに。「SIHH」や「バーゼルワールド」を毎年取材し、常に自分の買うべき時計を探す。口癖は「散財王に俺はなる!」。 安藤夏樹(写真右)●1975年、愛知県生まれ。ラグジュアリーマガジンの編集長を経て、現在はフリーに。「SIHH」や「バーゼルワールド」を毎年取材し、常に自分の買うべき時計を探す。口癖は「散財王に俺はなる!」。


安藤 なるほど。僕は使い方がわからないから生還は難しいけれど、そのときになって初めて、この時計の真価を痛感するわけだ。まぁ、そもそも飛行機を操縦できないけど(笑)。当然、この時計が出来た頃のパイロットたちは回転計算尺を使いこなせたんですよね?

広田 戦時中にアメリカ軍が、このタイプの回転計算尺を猛烈に作ったわけですよ。とりあえずパイロットになる人は回転計算尺の使い方を学びなさいとやったから、アメリカですごく普及したんです。戦後、軍のパイロットだった連中が民間に戻ったときに「回転計算尺が時計にくっついていると便利だよね」と言い始めて、生まれたのがナビタイマー。

1952年に発表されたナビタイマーのファーストモデル。


安藤 いいなぁ、合コンのとき、この計算尺を使って割り勘の計算とかしたらモテるだろうなぁ、“漢”たちに(笑)。

広田 そう、“漢”のなかでもオタクだけに(笑)。

安藤 ナビタイマーって、回転計算尺もそうだけど、文字盤が黒くってデザイン的に見ても独特ですよね。これを見た瞬間に「あっ、ブライトリングしてる!」ってわかる。

広田 そうそう。でもって、この黒い文字盤こそがナビタイマーがマスターピースとなった要因なんだと思います。文字盤が白いと、空の上ではキラキラ反射して目立つじゃないですか。戦闘機乗りからすると、それは命取り。だから、黒い方がいいのですが、昔はそれが難しかった。

安藤 なぜ?

広田 ナビタイマーの文字盤上にある細かな文字や目盛りが問題なんです。白地に黒い文字で書くのは簡単なんだけど、その逆は当時の技術では非常に難しかったんですよね。白って黒の上に書くと透けちゃうから。インクを厚盛りすればなんとかなるんですが、文字が細かいとそれも難しい。で、塗装ではなくメッキを用いたんです。

安藤 なるほど!勉強になるなあ〜。

広田雅将●1974年、大阪府生まれ。腕時計専門誌「クロノス」編集長。腕時計ブランドや専門店で講演会なども行う業界のご意見番である。その知識の豊富さから、付いたあだ名は「ハカセ」。 広田雅将(写真左)●1974年、大阪府生まれ。腕時計専門誌「クロノス」編集長。腕時計ブランドや専門店で講演会なども行う業界のご意見番である。その知識の豊富さから、付いたあだ名は「ハカセ」。


広田 1940年代にメッキの文字盤は一般にも使われ始めるんですけど、それをナビタイマーは大々的にやってしまったのが、新しいし、超格好いい。そして、この男っぽい精密な文字盤は人気を博し、現代へと続くマスターピースとなったわけです。

安藤 文字盤は今の現行モデルでもメッキを使っているんですか?

広田 今も基本的にはメッキです。もちろん例外はいくつかありますけど基本的な作り方は昔から変わらない。

ブライトリングならではの技法で、精緻な目盛りがダイヤルに刻まれる。 ブライトリングならではの技法で、精緻な目盛りがダイヤルに刻まれる。


安藤 その文字盤の作り方、ほかでやっているブランドはあるんですか?

広田 ないと思います。少なくとも量産しているのはブラントリングだけなんじゃないかと。黒文字盤の有名時計といえばオメガのスピードマスターもそうですが、あれは印刷。ナビタイマーほど文字が細かくないから、メッキを使う必要がないんです。

安藤 黒い文字盤ってのは、やっぱり昔も今も男の憧れなんですかね。ロレックスでも、圧倒的に黒文字盤って人気がある。『宇宙戦艦ヤマト』や『銀河鉄道999』の原作者として知られる松本零士さんなんかも、ナビタイマーの愛用者として名を連ねてますよね。

広田 そう、松本零士さんは、最初スピードマスターが欲しくて、でもお金が足りずに、こっちを買ったんですよ。でも、そのおかげで、あの『宇宙戦艦ヤマト』の緻密な計器のデザインが生まれたと思えば、ナビタイマーでよかったなと。今年、1959年製のナビタイマーの復刻版が出たじゃないですか。まさにあの時計こそ松本零士さんの世界。あれっていくらでしたっけ?

安藤 たぶんSSなら税抜きで100万円ほどだったはずです。

広田 そうかぁ。いいっすねぇ。迷う、マジで迷う。

1959年に発表されたモデルを完全復刻。オリジナル同様、クロノグラフも黒仕様となっている。「ナビタイマー Ref. 806 1959 リ・エディション」(1959本限定)40.9mm径、SSケース、手巻き。96万円/ブライトリング(ブライトリング・ジャパン 03-3436-0011)


安藤 僕も今年のバーゼルで欲しいと思ったいくつかの時計のひとつがあの復刻ナビタイマーでした。ベゼルに付いたビーズ装飾も雰囲気が良かったんですよね。男心をくすぐる。ということでそろそろ話をまとめると、回転計算尺も文字盤のメッキ仕上げも、すべては実用のための必然から生まれたものである、というところがナビタイマーの最大の魅力ということですかね。回転計算尺なんかはプロフェッショナルなものだから、使う機会はないかもしれないけれど、それでも、意味がなくっちゃつまらない。

広田 そう。飾りじゃないのよ目盛りは、です。

 

※本文中における素材の略称:SS=ステンレススチール

【問い合わせ】
ブライトリング・ジャパン 03-3436-0011

関 竜太=写真 いなもあきこ=文

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