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2019.06.07

時計

カルティエ「タンク」は、ジュエラーのすべてが凝縮された時計である


時器放談●マスターピースとされる名作時計の数々。そこから10本を厳選し、そのスゴさを腕時計界の2人の論客、広田雅将と安藤夏樹が言いたい放題、言葉で分解する。5本目はカルティエ「タンク」。


カルティエを代表する機械式時計「タンク」。

安藤 カルティエには時代を超えて愛されるモデルが多くありますけど、1本挙げるとしたらやっぱりタンクでしょうか。

広田 創業一族の3代目、ルイ・カルティエが、第一次世界大戦のときに戦車を見て「かっこいい!」と時計のデザインに取り入れたのがタンク。だから、その面白さは何といっても四角いカタチにあります。

安藤 昔の時計のカタチって基本的に丸しかないじゃないですか。そこに現れたまったく新しい世界観ですよね。

スゴい時計【5】
カルティエ「タンク ルイ カルティエ」




アンディ・ウォーホルが愛したことでも知られる、カルティエ「タンク ルイ カルティエ」。 アンディ・ウォーホルが愛したことでも知られる、カルティエを代表するモデル。K18YGケース、縦29.5×横22mm、クオーツ。94万円/カルティエ 0120-301-757



広田 通常、時計メーカーがケースを作る際には、金属を「削る」わけです。だから基本的には丸しか作れなかった。でも、カルティエはもともと「王の宝石商」と言われたジュエラー。なので、金属の使い方が時計メーカーとはまったく違うんです。ジュエラーには、金属を「曲げる」技術があったんですよ。貴金属の平たい板を、ペコッ、ペコッ、ペコッと曲げたらタンクができちゃう。今は違うけれど、初期のタンクは実際、そうやって作られていた。時計メーカーは思いつかないんですよ、この形は。

安藤 カルティエは時計の老舗でもあるけれど、やっぱり出自がジュエラーということが、常識にとらわれないモノ作りを可能にしたんですよね。



広田 そうそう。そういう例はほかにもあります。例えば、デプロワイヤントってあるじゃないですか。いわゆるDバックル。腕に時計を着ける際にパッチンって留めるアレです。アレを開発したのもカルティエなんですが、基本的な考え方は、貴金属を叩いてバネ性を持たせるというやり方。普通の時計メーカーでは考えられないですよね。だからカルティエにしかできなかった。

アンディウォーホルのサザビーズ出展品カタログ アンディ・ウォーホルの遺品がサザビーズに出展された際のカタログをめくる広田氏。


安藤 そのカタチの“新しさ”がセレブリティの目に留まる。昔のセンスのいい文化人はとにかくタンクが好きです(笑)。例えばアンディ・ウォーホルもそのひとり。ウォーホルはピアジェなんかも愛用していますが、タンクを愛する「タンキスト」としても有名。ちなみに、ここにサザビーズで行われたウォーホルの所蔵品オークションのカタログがあるんですけど、時計は角形が多いんですよね。

広田 うお! ちょっと見ていいですか。

安藤 ジュエリーとウォッチの一冊だけ見ても、圧巻のコレクションです。

広田 ホントだ。素晴らしいなぁ! 変態だなぁ(笑)。

アンディウォーホルのサザビーズ出展品カタログ サザビーズの出品カタログには、カルティエの「サントス」も載っている。


安藤 やっぱり普通じゃない造形へのリスペクトがあったんじゃないかと思いますね。だからジュエラー系の時計がけっこう多いし、レディスも持ってる。

広田 変わった時計が多いなぁ。このコルムの変態時計とか素晴らしいなぁ。とにかく審美眼がスゴいです。

安藤 タンクはそんなウォーホルが選んだ時計ですから、それを見た当時の人たちも憧れたんじゃないかなと思います。



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