伝統的な機械式時計は、精度の追求が進化を促してきた。その方向性は複雑機構の開発から、厳密な品質規準など多岐にわたる。
ただ精度だけを求めれば、今やクオーツや電波、GPSなどの技術にかなわないが、要諦は機械式でどこまで実現できるかだ。今回紹介するアイテムからは、そんな情熱とロマンを感じる。
正確性は伝統に基づき、正しい時間合わせから始まる
PANERAI
パネライ/ルミノール 1950 3デイズ GMT オートマティック アッチャイオ -44MM
パネライの人気の理由は、歴史を継承する独自のスタイルや機能を損なわず、より現代に通じる道具としての実用性を追求する点にある。こちらは、かつてのアーカイブに倣ってロングパワーリザーブを前提にした自社製ムーブメントを搭載し、マリンウォッチの出自と現代的な実用機能を融合したGMTを装備する。
さらに時刻合わせ時に秒針が瞬時に帰零するゼロリセットセコンドを備え、動作確認にすぎなかったスモールセコンドに正確性を与えた。始まりを重んじる精神がそこに込められる。
黄金分割による普遍の美に相応しい永久保証
PATEK PHILIPPE
パテック フィリップ/ゴールデン・エリプス
誕生50周年を迎え、ブランドの現行モデルではカラトラバに次ぐ歴史を誇る。
パテック フィリップは2009年、長年採用した品質基準をジュネーブ・シールから新たに自社規格パテック フィリップ・シールに移行。製品全品に対し、美観に加え、ケース実装で日差 –3〜+2秒の高い精度や、完全なアフターサービスと修復を保証する。
1/100秒計測を実現し、次世代の超高振動へ
ZENITH
ゼニス/デファイ エル・プリメロ21
エル・プリメロは1969年に誕生し、毎時3万6000振動を誇る完成度に現在も磨きをかける傑作ムーブメント。そのさらなる技術革新として、毎時36万振動を達成した。センターのクロノグラフ秒針は1秒で文字盤を1周し、1/100秒の精細な時間を計測。通常の時刻計測用のほか、クロノグラフ用のふたつの脱進機と香箱を備えることでこれを実現し、パワーリザーブもクロノグラフが50分、ウォッチは50時間を誇る。
デザイン復刻だけでなく、耐磁性の伝統も継承する
OMEGA
オメガ/レイルマスター マスタークロノメーター
1957年に発表されたレイルマスターが復刻。当時、鉄道員や電界付近での作業員向けに備えた1000ガウスの耐磁性が1万5000ガウスにまで引き上げられた。
これは、2014年にスイス連邦計量・認定局(METAS)がオメガとともに制定したマスタークロノメーターの規定に準じている。合格した製品には固有の番号が記されたギャランティカードが発行され、インターネットの専用サイトで検査項目の全内容も確認できる。堅牢な実力に味わいのあるテキスタイルストラップが調和する。
ジュネーブシールが息づく’50年代レトロモダン
VACHERON CONSTANTIN
ヴァシュロン・コンスタンタン/フィフティーシックス・デイ / デイト
1956年に発表されたアーカイブをベースに、マルタ十字をモチーフにした特徴的なラグスタイルを継承。より現代的な佇まいに仕上がった。セクター&飛び数字のインデックスに、左右には曜日のカレンダーを備え、レトロモダンを醸す。
取得するジュネーブ・シールは、近年の改定でケーシングでの精度検査など認定基準がより厳格になっている。9月発売予定。
先人へのリスペクトを捧げ、さらにその先へと進む
TAG HEUER
タグ・ホイヤー/タグ・ホイヤー カレラ キャリバー ホイヤー02T トゥールビヨン セラミック
時計の精度追求の歴史において一大エポックメイキングだったのが、1795年に発明されたトゥールビヨンだ。これは、重力の影響でテンプの振れ幅が不安定になり時刻が狂うのを防ぐため、脱進機そのものを回転させる複雑機構。素材や技術が飛躍的に発展した現代では、機能性というよりも伝統が息づくその様式美に価値がある。
タグ・ホイヤーはこれを現代的な解釈で発展させた。クロノグラフを備えたうえにクロノメーターも取得し、さらに圧倒的な価格で実現したのだ。
伝統的なトノウケースにクラフツマンシップが凝縮
PARMIGIANI FLEURIER
パルミジャーニ・フルリエ/カルパカ リテフルリエ
姿勢差や温度差を加味した高い精度に加えて、装飾の品質も審査する第三者機関、カリテフルリエの基準を満たす。新ムーブメント「PF442」は直列ツインバレルを採用し、60時間のパワーリザーブを実現した。ブラックダイヤルの周囲には職人の手作業によるギョーシェ彫りが施されるなど、妥協なきクラフツマンシップを凝縮。
精度の高さは、時を知る道具としての腕時計に求めるべき第一の要素だ。ただ、機械式が放つクラフツマンシップや日々進化を遂げる精巧な構造がもたらすロマンチシズムもまた魅力として捉えることができよう。