人の躍動を、円弧と直線で表す
——今回のピクトグラムの特徴を教えてください。 前回の東京大会がスポーツピクトグラムの原点だとすれば、一周して戻ってきた印象で、当初は「戻ってきたということは、前回と同じものを作るべきではない。2020年独自のものを」という気持ちがありました。
しかし、途中から徐々に「一周して戻ってきたのなら、我々は原点回帰、スポーツピクトグラムの新しいスタンダードをつくるべきではないか」と感じてきて、「どこにもない、違うもの」というよりも、いろいろとそぎ落とした「ど真ん中」というか、多くの人がテレビなどで見ている各競技のイメージと重なるピクトグラムを、という気持ちが強くなってきたんです。それで、意識としては先人が作り上げた前回の東京大会のピクトグラムの精度や完成度を上げる、という方向性になりました。
——競技がイメージしやすい「ど真ん中」のデザインは、ピクトグラムの本来の役割ですよね。 人はどこかで見たことがあるものに親和性を高く感じます。それは悪いことではなく、人の記憶に残っているものを引き出しているとも言える。それができれば成功かな、と。「普通ですね」と言われるかもしれませんが、それはそれで本望ですよ。
——「前回と東京大会から精度や完成度を上げた」のは、どういった点でしょうか。 前回の東京大会のピクトグラムは、少ない時間で複数のデザイナーが作成したということもあり、同じように見えて、実は個々が異なっています。よって、全体の統一感がより行き届いているデザインを目指しました。もうひとつは肉体の美しさ。オリンピックはアスリートが人間とは思えない動きによって我々に感動を与えてくれます。よりそれを形にしたかった。
前回のピクトグラムは、陸上などは競技中の選手をデザインしている一方、柔道は立ってポーズを決めている姿だったり、ヨットは選手が存在せずヨットのみのデザイン。それぞれのピクトグラムは優れていますが、先ほど申し上げたように、選手の肉体の美しさ、動きも積極的に表現したかったので、今回はすべて選手が競技を行っているピクトグラムで統一しました。
——より肉体、動きが強調される方向で統一を図られたんですね。 例えば陸上競技も、直線と円弧だけでデザインするのは前回と同様でも、もっと躍動感やリアリティを出すことを追求しました。角度を変えてみたり、上腕を太くしてみたり……それとボディ。
前回のピクトグラムはウェアの部分を「抜いた」のがよかったと思うのですが、全員が同じウェアを着ているわけではないので、この「抜き」をボディとして考えようと。そうしたら体全体に動きを与えやすくなりましたね。また、ゴルフや野球など特徴的な道具やウェアを使う競技は、それに抗わず取り入れるようにもしました。
——ゴルフは上半身のみですね。 それも理由があります。今回、「統一感」という点で、すべてのピクトグラムがユニセックスであることを目指したんです。ところが、ゴルフは最初全身で考えていたのですが、下半身のラインでどうしても男女差が出てしまう。それで思い切って上半身にしたら、男女差がなく競技もより伝わりやすいデザインになりました。
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