OCEANS

SHARE

流川の覚醒と重なる、R-1、M-1優勝への道



ただ、お笑いの世界に足を踏み入れて以降は、M-1を獲るまでかなりしんどかったですよ。とにかく苦しい時間が多かった。

メンタル的には「いつか見てろ」って思ってるんですけど、2017年にM-1決勝で最下位になったときは、「あ……これ終わったかな」って思ったし。

でも、時間が経つにつれて開き直って、逆に自分のやれることを探そうと考え直しました。

それまでは、「あれもできるし、これもできる」「自分は何においても勝てる」みたいな意識を持ちながらやってたんですけど、「やっぱ、実際はなかなか勝てねえんだな」って現実を受け止めて。



心境的には、湘北vs.陵南戦の魚住 純に近いかもしれません。

「ビッグ・ジュン」と呼ばれて鳴り物入りで陵南へ入学したものの、練習についていけず、監督にも怒られてばかり。「もう辞めよう」って思うんだけど、監督から「お前をでかくすることはできない。たとえオレがどんな名コーチでもな。立派な才能だ」と諭されるんです。

魚住はそれまで、赤木に勝てるように技術を身に付けたいって考えていたし、デカいだけっていう後ろめたさもあったと思います。けど、監督に諭されてからは身長という武器を活かしながら、自分にしかできないことを探しましたよね。

僕もゲームは自分にしか作れなかったんで、それを活かそうと思いつきました。それがゲームネタで優勝した「R-1ぐらんぷり」に繋がったんだと思います。



山王工業戦で、ついにパスという選択肢をついに身につけた流川もそうですよね。

それまでは強気でオフェンシブな闘い方にこだわって勝とうとしていたけど、自分より能力の高い沢北を前に、行き詰まってしまった。どうしてもこの壁を越えられないとなったときに、チームメイトにパスを出したら、自分のオフェンスもさらに活きることに気付いて、プレーにも幅ができましたよね。

バスケに限らず、自分の得意分野で何か壁に当たったら、一度ほかのことをやってみるといいんですよ。結果、すべてが財産として上積みされていくので。

M-1やR-1の優勝も本当にその流れで、漫才で行き詰まって行き詰まって、どうしようもなくなったときに、試しに自分の得意なゲームでR-1に挑んでみようと思ったら優勝できて、その優勝によってM-1優勝への道も切り拓かれたんです。あのときの気分はマジで流川でしたね(笑)。

パスを覚えた流川が、2020年の僕でした。本当に人生そのものだと思います、流川が覚醒したシーンは。

「ゴリ!まだいけるよな!!」の言葉に震える



そういう変化を迎えるには、環境も大事なのかなって思いますよね。何回読んでも泣いちゃうのが、山王工業戦の赤木のシーンです。

凄まじい苦戦を強いられるなか、相手のエース・沢北を桜木と赤木が二人がかりで止めるんですよね。そして、赤木に対して桜木が「ゴリ!まだいけるよな!!」って声を掛けるんです。

赤木にそんなことを言ってくれる仲間なんて、ずっといなかったんですよ。以前は、負けそうになると試合中でも諦めるチームメイトばかりでしたから。

だから、一瞬の間ののちに「ああ!! まだいけるぞ!!」って返答する赤木の顔が、すごくうれしそうというか……本当にもう負けそうなのに、希望に満ちた表情なんですよね。何度読んでも震えます。



テレビとかでも、面白いものをもっともっと作ってやるぞって意気込んでいる人は、とにかく情熱がハンパじゃないんです。

あるコント番組に出させてもらったときも、スタッフの熱意にビックリしました。俺が言った無理難題を、全部徹夜して用意してくれて。本当にいいものを作ろうと思っている人たちしか集まってないから、苦労を気にしないというかね。

ゲームを作るときもそう。それぞれの専門的な役割の人たちが集まって、「ああでもない、こうでもない」って話し合うんですけど、みんなでハードルをひとつひとつクリアしていくのは気持ちいいですね。全員が本気ですから。

そのときは「ああ、俺たち今『スラムダンク』してんな」って感じます。うん、確かに“野田ゲー”は『スラムダンク』してますね。

フフフッ。




人間、生きていれば壁にはブチ当たる。そんなときは一度立ち止まり、別の手段を探ることで解決の糸口が見つかるかもしれない。そして壁を乗り越えたとき、ひと回り成長したことを実感するはず。

そうして王者になった男の言葉は、やはり重厚である。

「かく語る『スラムダンク』」とは……
映画公開も控えたバスケ漫画の金字塔『スラムダンク』。作品の持つエネルギーは凄まじく、それは時に人生を左右するほどの影響力を持つ。実際に触発され、全国区へ駆け上がったオーシャンズ世代の同志はこの漫画をどう読んだのか。男たちは、かく語る。
上に戻る 


佐藤ゆたか=写真 菊地亮=取材・文

SHARE

次の記事を読み込んでいます。