OCEANS

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本棚には写真集が多い。そのジャンルは多岐にわたるが、広告代理店勤務だった父と、ファッション業界に関わっていた叔母から譲り受けたものが多い。ウィリアム・クラインの『New York』は1956年の初版。お父さまがアメリカ出張の際に買ってきたものだという。
その正体はいったい何でしょう?という質問に、玉井は即答した。
「氣、じゃないですかね。あれは氣が入ってて、そいつに引っ張られるんだと思う」。
「ツァイス」のイコンタ。新品で買ったという方から譲り受けたクラシックカメラ。いわゆるワンオーナーものだ。蛇腹に光漏れなどがあったため、各部をレストアし、いつでも使える状態にしてある。「こういうモノをきちんとしておくのも、持つ人の責任だと思ってる」。普段はソニーの「α7 Ⅲ」にレンジファインダーのレンズを装着することが多い。フィルムで撮るときにはコンタックスか、マキナ67を使う。
もしかしてそれは、ゲンテンスティックに乗ったときに感じるものと同種だろうか。
「どうだろう。俺たちも、それなりの情熱と時間は注いでるけどね」。
友人のカスタムバンブーロッドビルダー「Yudai Maker」によるフライロッド。左が「Trout 804」、右が「Yamame 734T」。モデル名末尾についた「T」は、玉井モデルであることを表している。「試作品でテスト中だけどね。感触はいい」。
だとしたら、氣は作り手の情熱や想い、ということだろうか?しかし玉井はこう言って笑うのだ。
「氣は氣、だよね。意識して作れるものじゃないと思う。そして氣に押されないことも大事で。モノはモノだから、使ってなんぼだと思ってる。だから手入れをして、いつでも使えるようにしていたい」。
レコードは時代やジャンルに関わらず、手をかけた良い録音で、音に深みのあるものを聴いている。玉井の好みの音を作り出すのは、友人のオーディオメーカー、ラブワークスサウンド社のセット。
孤舟の竿を振った小学生の頃と変わらず、今も同じ気持ちでアナログレコードに針を落とし、ツァイスを、ハンドメイドのバンブーロッドを、スペシャルシェイプのスノーボードをフィールドに持ち出す。
そうして新たな刺激を受け止めながら、次の創造へと情熱を傾けるのだ。
玉井太朗●1962年生まれ、東京都出身。北海道ニセコ在住。幼少の頃よりスキーに親しみ、サーフィンを経験。やがてスノーボードに巡り合い、競技者を経て’98年に「ゲンテンスティック」を創業。 www.gentemstick.com
二木亜矢子=写真 林 拓郎=文 加瀬友重=編集


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