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2021.11.20

あそぶ

スノーボードの作り手が語る道具の本質「心惹かれるモノには“氣”が入っている」

「ゲンテンスティック」の創設者である玉井太朗に聞く“道具の話”。
前編中編では自身が手掛けるスノーボードについて伺ったが、最後は玉井が“自然と引き寄せられた”と語る道具について話してくれた。
 

氣が入っているモノには自然と引き寄せられる

スノーボードの作り手が語る道具の本質「心が惹かれるモノには“氣”が入っている」
既に20年をともにしてきた相棒である「ランドローバー」のディフェンダー110。冬のスノーボーディングはもちろん、ルーフキャリアにサーフボードを何枚も積み重ねてトリップに出かけることもある。走行距離はもうすぐ38万km。「ぼちぼち月に届く」頃合いだ。
中学一年生の夏、玉井は東京から大阪へ一人旅に出た。偶然目にしたヘラブナ用の釣り竿に心を掴まれたからだ。無駄のない美しさ、溢れ出る存在感。それは「孤舟(こしゅう)」という職人の作で、ぜひ、この人に会ってみたいと思ったのだ。
手にしているのは、中学生のときに会いたくて会いたくて訪ねた竿職人「孤舟(こしゅう)」氏からいただいた作品集。今も時折眺めている。
朝、面会の約束もなく工房を訪ねた玉井は、なぜ自分がここに来たのかを必死に話した。すると職人は少年を招き入れ、工房の隅に座らせた。
しかし丸一日座っていても何も話さず、ただ黙々と竿を作り続けている。玉井も、それをずっと眺めていたそうだ。やがて夕方になり、職人は奥から一本の竿を出して「これを使いなさい」と手渡してくれた。
鯛、ヘラブナ、渓流。小学校の頃からさまざまな釣りを経験してきた。厳選され残った道具が、手入れの行き届いた状態で出番を待つ。右から4本目が孤舟のヘラ竿。
帰り道、玉井は路線バスで琵琶湖を回りながら、ここぞと思った場所で竿を振った。竿はしなやかな弧を描き、小さなフナを引き寄せた。
東京に帰りそのことを周りの大人に話すと、とても驚かれたという。「孤舟」の銘が入ったその竿は高価で、子供が持つようなものではなかったからだ。玉井はその竿をいたく気に入り、折々に振り続けた。もちろん、今でも大事にしている。
バイスをはじめとする道具類は、必要と思われるミニマムな機能で選ぶ。フライフィッシングでもテンカラのようにアクションで誘うのがスタイル。そのためフライもシンプルなデザインで仕上げる。
孤舟のヘラ竿に限らず、玉井の周りにあるモノにはストーリーがある。簡単には言い尽くせないエピソードに彩られている。古いニューヨークの写真集、漆工芸の解説書、1960年代のファッション雑誌。
「たぶん、そういうモノから何かを感じているんだよね。さりげないモノでも、これはいいな、こっちがいいな、っていう感覚はある。理由はわからないけど、心が惹かれる」。


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