ルパン三世もこれだったら泥棒稼業がはかどったかもしれない。
音もなく近づいてきた見知った車は、フィアットの2代目500(ヌオーバ・チンクエチェント)、その電気自動車バージョンの「500ev」だ。
けれど、単にヌオーバ500のエンジンを外してモーターを突っ込んだヤツなんかじゃなかった。
文化財としての500を未来に残したい
愛知県名古屋市にあるチンクエチェント博物館。ヌオーバ500の通称プリマ・セーリエ(イタリア語で「最初期シリーズ」の意味)から、大きな丸い目が少し飛び出ているUSA仕様、屋根を取っ払ってビーチ仕様にしたギア・ジョリーなど、珍しいヌオーバ500を所蔵する私設の博物館だ。
ヌオーバ500が好きすぎて、同博物館を2001年に設立したのが伊藤精朗さん。
当時はまだ現行型500が発表されてなかったこともあり、伊藤さんは「500はイタリアの”動くモダンアート”と言っていいような価値ある存在。世の中にこんな車があるんだと知ってもらいたかった」と同博物館を立ち上げたという。
やがて現行型が2008年に日本で販売され、大ヒットすると、次第にヌオーバ500のほうも有名になってきた。ところが1975年に生産が終了したヌオーバ500は、現地イタリアでもさすがに台数がどんどん減ってきているという。
「イギリス人なら『この動くアートを文化財として残そう!』とか保存活動をやるかも知れませんが、イタリア人はあんまりそんなこと気にしない(笑)。だったら自分がやろうと」。
しっかりレストアして、この車に興味を持ってくれた日本の人々に届けようと考えたのだ。「気持ちとしては、大事なペットの里親探しみたいなものですよ(笑)」。
もちろん博物館としてやる以上、レストアの仕上がりは博物館クオリティにこだわった。「国内での数は少ないとはいえ、あれだけ売れた車だし、まだ現役で走っている車もあるので、イタリアでは新品パーツが手に入ります」という。
昨年夏からガソリン車の販売が始まり、1年間で25台ほど“里親”が見つかった。そして伊藤さんは、ヌオーバ500の電気自動車化プロジェクトもスタートさせたのだ。
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