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カスタムメイドの精神

ヴァンズは1966年3月16日にポール・ヴァン・ドーレンが兄弟のジェームスとかつての同僚だったゴードン・リー、セルジュ・デリーアとともにカリフォルニア州アナハイムにショップをオープンしたのが始まりである。
創業者のポール・ヴァン・ドーレン。
ポールは14歳で中学をドロップアウトすると、シューズメーカーのランディーズ・ラバー・カンパニーに職を見つける。当時から俯瞰する目を持っていたようで、ほどなく生産体制の合理化を成し遂げ、さらにはサーフィン業界へ食い込むことに成功した。
記念すべきヴァンズ一発目のモデルが、1974年の創業と同時にリリースした「オーセンティック」。
サーファーやスケーターが高く評価したのがランディーズ・ラバー・カンパニーでの20年のキャリアから生まれたワッフルソールである(ワッフルソールといえばナイキも有名だが、その第一号モデルのワッフルトレーナーが誕生したのは1976年のこと)。
その類まれなグリップ力と足にダイレクトに伝わる感覚にライダーは欣喜雀躍した。
1974年に誕生した「オーセンティック」が履いたワッフルソール。
見逃せないのはそのショップがカスタムメイドからスタートしている点だろう。サイズや色を選んだ客が夕方に訪れると、出来立てホヤホヤのスニーカーが主人の帰りを待ちわびていたという。
ヴァルカナイズド製法のスニーカーをその日のうちに仕上げたとはにわかには信じがたい話だが、まぎれもない事実である。とすれば、それは比喩ではなく、本当に湯気が立っていたかも知れない。
当時のヴァルカナイズド製法の釜。
ポールは片足での販売にも対応した。スケーターのスニーカーは利き足ばかりがすり減ってしまうからだ。一足から作れるヴァンズにとっては造作もないことだった。
カスタムメイドという販売方法を採ったことで、ヴァンズはスケーターに支持された。のみならず、半世紀経ってなお古びることのないモデルを生む原動力にもなった。
ヴァンズが時代を超えて愛されるのはこれ以上削ぎ落とすことのできない、パーマネントなデザインをかたちにしているからである。
ハイテクとも巷のローテクとも一線を画すヴァンズならではのデザインもまた、カスタムメイドの恩恵といえるものだ。組み合わせの妙を楽しもうと思えば一つひとつのパーツは限りなくシンプルなほうがいい。
映画『Fasttime リッチモンドハイ』公開時の広告。


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