「腕時計と男の物語」とは……ガレージの片隅に1台の自転車が置かれていた。正確に言うと、フレームとパーツにバラされた、かつてのランドナーだ。
もう半年以上になるだろうか。20年以上眠っていた愛車を引っ張り出し、レストアしている。素人なので本格的な作業はプロに任せるが、できる限り自分の手で再生したい。
一つひとつパーツを外し、汚れや錆びを落とし、交換品は専門店やインターネットで探す。でもそんな作業や手間が楽しい。
クロモリのフレームを丁寧に磨いていると、これで走ったツーリングの思い出が蘇る。峠のつづら折りでは何度諦めて押そうと思ったことか。
その日ももう脚が止まろうとした瞬間、ロードレーサーの集団に抜かされた。みるみる離されていく後ろ姿に、恥ずかしさと意地もあって走り続けた。ようやく見晴らし台に到着し、休憩していた集団に追いついたのだった。
「お疲れさまでした」とリーダー風のライダーが話しかけてきた。
「すごいですね。この坂をランドナーで上ってくるなんて。今もみんなで話していたんですよ」。
確かにカーボンフレームに最新の変速機を備えた軽量ロードレーサーがスポーツカーだとすれば、フル装備のランドナーは耕耘機みたいなものだ。でもそれも兎と亀だ。僕にはそれが似合っているし、自分の力だけで進むという点に変わりはない。
「いや、皆さんに引いてもらったようなもので。ありがとうございます」。
今もあの涼やかな風が吹き抜けるような気がする。そんな時を刻むのが
クレドールの「叡智Ⅱ」だ。
手でゼンマイを巻くことで、時計に命が宿る。一見するとクラシックな手巻きだが、革新的なスプリングドライブムーブメントを搭載し、高い精度とともに秒針は間断なく滑らかに進む。まるで力強く回転する自転車のクランクのようだ。
そしてダイヤルはラピスラズリとも呼ばれる深い瑠璃色。ポーセリン(磁器)ならではの美しい艶あるテリ感はこの先いつまでも変わらないだろう。
シンプルを極めた3針の時計は、ヴィンテージのランドナーにも似ている。装飾をそぎ落とした佇まいは男のドレッシーそのもの。だがそれも人間が生命を吹き込むことで、本来の美しさに輝くのだ。そしてどこまでも進み続ける勇気を与えてくれる。
このランドナーが完成したらどこへ走ろう。きっともっと遠くへ行けるはずだ。
美しい瑠璃色に秘めた世界に冠たる国産技術の粋
CREDOR
クレドール/叡智Ⅱ
2008年の「叡智」の第2世代として登場。ダイヤルには瑠璃色のポーセリンを採用した。
古くから絵画や美術工芸品に用いられ、ラピスラズリとも呼ばれる瑠璃色を再現すべく、試行錯誤を繰り返し、従来よりも焼成回数を増やすことでその色味を実現。限られたエネルギーを有効に使い、持続時間を延ばす独創的な機構「トルクリターンシステム」を搭載し、約60時間のパワーリザーブを誇る。
国産の矜持とともに腕にしたい。
※本文中における素材の略称:Pt=プラチナ
「腕時計と男の物語」とは……男には愛用の腕時計がある。最高の相棒として、その腕時計は男と同じ時間を刻んできた。楽しいときも、つらいときも、いかなるときも、だ。そんな男と腕時計が紡ぐ、とっておきの物語をここで。
上に戻る 川田有二=写真 石川英治=スタイリング 柴田 充=文