OCEANS

SHARE

2021.08.19

時計

共感したのは哲学。編集者・安藤夏樹が選ぶ腕時計は「楽しくて、本質が伴ったモノ」

「腕時計は、人生の節目に、その都度時めいたモノを購入しています。ときには節目を無理くりに作り出すことも(笑)。値が張るので言い訳が必要ですよね」。
編集者として数々メディアに携わる安藤夏樹さん。そうは言いながら、このH・モーザーは自身が編集長を務めていた雑誌が休刊になったとき、という真っ当な節目に選んだ一本だ。
「ベンチャー・コンセプト ブルーラグーン」見た目はドレッシーだが、骨太なモノづくりに定評のあるマニュファクチュールの限定モデル。何も書かれていないダイヤルには、フュメと呼ばれる美しいグラデーションが施され、K18WGケースに映える。
「腕時計は、仕事でスイス取材をするようになる以前から趣味で集めていましたが、当時からH・モーザーには好感を抱いていたんです。のちに現在のオーナー、メイラン家が統括するようになり、さらにロックなスタンスが増幅。
現在のスイス時計界のあり方にアンチテーゼを唱えるように、その基準を満たしながらもダイヤルから“SWISS MADE”表記を排除したり、あるいは、ブランド名を記載しなかったり。結果、美しいフュメダイヤルが際立つところなんかも、非常に面白いなと。
それまでは、雑誌名や肩書きを背負って仕事をしていたのですが、その後は看板のない一編集者としての道を行くことになります。そんな自身の状況ともぴったりとハマったように思えたんです」。
安藤夏樹●1975年、愛知県生まれ。出版社営業職、金融誌記者、ライフスタイル誌編集長を経て、2016年にプレコグ・スタヂオを設立。雑誌、ウェブ、書籍の編集などを手掛ける。一方、「東京903会」主宰として、木彫り熊の普及にも尽力し、イベントなどで全国を行脚している。口癖は、「散財王に俺はなる」。
安藤さんは時計に限らず、“楽しくて、本質が伴ったモノ”に時めくと言う。どんなプロダクトであっても、まずはモノづくりの基礎がしっかりとしていることが必須条件だ。
「そのうえでセンスが感じられるモノがいい。その点でも、この時計は合致します。もしこれが、形だけのファッション時計で、単純に奇抜さだけを売りにしているようなら、惹かれなかったと思います。
自分にとって腕時計とは。ひとつ確実に言えるのは、時刻を見るだけの道具ではない、ということ。ただし、本質が大事なので、精度も仕上げも妥協のないモノを選びます。一方で、自分を知ってもらうためのツールでもあると考えています。だから、誰と会うかでその日着用する時計も替えるんです。
とある著名な陶芸家と初めて会う際にこの時計を着けて訪ねたところ、まじまじと見ながら『キレイな時計ですね』とひと言。決して時計に詳しい方ではなかったのですが、ブランド名も書かれていないこの時計の魅力を共有できた。伝わる人には伝わるんだなとうれしく思いました。
最後に、日常を非日常に変換してくれるツールでもあります。リモートワークが加速して服装のカジュアル化が進む中、この時計一本でドレスアップが可能。ドレスアップって非日常だと思うんですよ。そんな部分にも時めいています」。
 
※本文中における素材の略称:K18=18金、WG=ホワイトゴールド
川西章紀=写真 髙村将司=文


SHARE