悩んだ関根さんは、警察官を辞めることを決断した。
もう数カ月在籍すれば、年金が満額もらえるタイミングだったが、自分の年齢や残りの選手生命を考えると、その時間すら惜しいと思ったからだ。
当然、上司や同僚からは引きとめられ、妻にも驚かれたが、気持ちは変わらなかった。決断に踏み切れたのは、ブラジル人の生き方や、前出の先輩の死が大きかったという。
「ブラジル人には、『やりたいことをやらない人生なんて意味がない』ってマインドがあるんです。その生き方に背中を押されましたね。あと、僕が格闘家デビューしたイベントを主催していた先輩が、白血病で急死したこともきっかけです。人はいつ死ぬかわからない、であれば我慢せずにやりたいことをやろう、と決めたんです」。
何より大きな後押しは、警察官として接してきた若者たちの存在だ。パトロールをしながら、生きづらさを抱えて非行に走る少年・少女たちに、関根さんは「学校や勉強が嫌いでも、やりたいことがあれば一生懸命やりなさい。諦めたり恥ずかしがったりせず挑戦しなさい」とよく伝えていた。
それなのに、自分自身が公務員の安定性にしがみつき、格闘家への夢を諦めてしまうようでは格好悪い。生きざまを通じて、若者たちに挑戦する姿を見せたかったのだ。
そしてタイトルマッチの大舞台へ。対戦相手は、世界最高峰の格闘技団体UFCにも出場している強豪。結果はKO負けだったが、関根さんは晴れやかで前向きだ。
今度は生き様を通じて人を笑顔にしたい
「このままでは終われないですね。またリングに上がって、結果を残していきたいです。でもそれより、負けても諦めずに立ち上がり、ズルをせず正しく生きて、挑戦していく姿をみんなに見せたい。警察官は、国民の笑顔を守るのが仕事ですが、今度は生き様を通じてみんなを笑顔にしていきたいです」。
現在は格闘家だけでなく、プロレスラーとしても活躍する関根さん。一歩踏み出したことで、昔からの夢を手に入れたのだ。昨年はコロナウイルスの影響で、試合が軒並み中止になったが、「これも人生のイベント。体を休められたしちょうどいい」と笑い飛ばす。
逆境などもろともせず、関根さんは人生を楽しみ、これからも挑戦し続けていく。その物語は、本家『シュレック』のように、人々に笑顔や勇気を届けていくのだろう。
肥沼 和之:フリーライター・ジャーナリスト
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