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自作のチョコレートの味に感動

吉野さんが日本に帰国して数週間後、カカオ豆がインドネシアから届いた。計画していたとおり菓子メーカーに営業の電話をかけてみたが、どこも完全に門前払い。商社とも繋がりのない個人は相手にしてもらえなかった。
自宅のスペースの3分の2を埋め尽くす大量のカカオ豆を見て途方に暮れつつ、頭のなかには新たな計画が思い浮かんでいた。買ってもらえないのなら自分でチョコレートを作って売ればいいのではないか。そうするしかない、やってみよう。
やると決めたら行動するのみ。このときも吉野さんの動きは速かった。一緒にチョコレートづくりをしてくれる人を探すためにハローワークに求人広告を出し、コーヒー豆の焙煎経験があるスタッフを雇った。
「異業種からパティシエに転身となると、どこかのショコラティエで何年か修業をして、というルートが一般的ですよね。だけど、僕はどこの店でも修業していません。当時の日本にはカカオ豆からチョコを作れるシェフがひとりもおらず、独学するしかなかったんです」。
(写真提供:吉野慶一)
カカオ豆を焙煎して磨砕し、精錬してチョコレートペーストを作る──というのが基本的なチョコレートづくりの工程。けれど、当然ながら市販されているレシピ本にもカカオ豆からチョコを作る方法など載っていない。最初は焙煎の方法すらわからず、理科の実験のように5分刻み、5℃刻みで微調整を繰り返した。
そうして焙煎した焼き立てのカカオをペーストにして、生クリームや砂糖を加えたものを味見すると、あまりの香り高さとおいしさに感動した。これはいける。スタッフと一緒に寝る間を惜しんで試行錯誤を続けた結果、納得のいくチョコレートができた。
「それが、今もダリケーの主力商品になっているトリュフです。出来立ての生チョコレートに粗く挽いたカカオ豆をまぶした『中も外もカカオ』がコンセプト。カカオを丸ごと食べるような感覚を楽しんでもらえます」。

2011年1月にインドネシアでカカオ豆を買い、2カ月後の3月11日に創業。4月には京都にダリケーの第1号店をオープンしていた。


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