街に馴染むスーパーカー
私は小学生の頃から王道を好まなかった。スーパーカーブームのときのフェイバリットカーは、ランボルギーニ ジャルパとアストンマーチン ラゴンダ。流麗で派手すぎないマセラティ メラクは次点で、本気でいいなぁと思えるようになったのは、大人になって同じハイドロニューマチックを搭載したシトロエン BXに乗るようになってからだ。
出版社で自動車雑誌の編集者をしていた頃、中古の欧州車の小特集を担当していた。ビトゥルボ系のマセラティにも何度か乗る機会があり、革とウッドで覆われた貴族的な内装とパンチの効いたエンジンの魅力に惹かれ、何度か購入を検討したことがある。
特に、ロイヤルの濃厚な雰囲気とギブリの軽快さの両方を備えた228の5MTは、懐さえ許せば手に入れたいと思っていた。
そんなマセラティ=ビトゥルボ系のイメージが強い自分にとって、MC20は価格的にも性能的にも遠い存在である。初見の印象は、流麗で破綻のないデザインで、本気のスーパーカーなのに街の風景に馴染みそうだということ。
小学生の頃にメラクを目にしたときの印象と同じで、その点でちゃんとマセラティのクーペ系の伝統が受け継がれていると感じた。そして、自社開発の3.0L V6ツインターボのエンジン!故障が頻発した初期のビトゥルボの二の舞にならないことを願いつつ、久しぶりの自家製マセラティの“音色”を早く聞いてみたくて仕方がないのだ。
| ファッションジャーナリスト 増田海治郎 ファッションジャーナリスト。ファッションと同じくらい車好きで、当初はモータージャーナリストを目指していたが、運転が下手すぎて挫折(泣)。愛車は現行のプリウス。 |
ブランドの過去と未来を繋ぐモデル
近ごろ世間を賑わせている自動車の話題といえば電動化で、なかでもバッテリーEV(BEV)の未来をめぐる議論がかしましい。結局のところそれは自動車を産んだ地域であるヨーロッパの逆襲、だったり。第2のマネーであるCO₂排出権と絡めつつ。
イタリアの老舗マセラティも早くから電動化を宣言しています。先日発表されたギブリハイブリッドはその第一弾ですが、注目すべきはこのMC20。まずは新開発V6エンジンを積みますが、実は再来年以降に登場するBEV仕様もまた本命です。
つまりMC20とはブランドの過去と未来とを繋ぐ重要な架け橋的モデルになる、と。だからこそ唐突に見えることを承知でミッドシップパッケージを採用し、あえてスーパーカー市場へと討って出た。重いバッテリーを積むには有利なパッケージでもあります。
そんなメーカーの思慮遠望を抜きにしてもこのMC20、性能スペックを見る限り“スーパーカーイーター”になる可能性は大。市場の好感度も高く、乗り出し3000万円級であるにも関わらず向こう2年分が売り切れに。
幸運にも手に入れた方は、スーパーカーブランドに乗るほかの車好きよりも随分と“晴れがましい”気分でドライブできることでしょう。そして最新の内燃機関を存分に楽しんだあと、BEVモデルが出たらすぐに乗り換えればいい(リセールバリューもきっと高い!)。
“時代の流れに敏感アピール”も万全というものです。
| モータージャーナリスト 西川 淳 フリーランスの自動車“趣味”ライター。得意分野は、スーパースポーツ、クラシック&ヴィンテージといった趣味車。愛車もフィアット500(古くて可愛いやつ)やロータスエランなど趣味三昧。 |
増田海治郎、高村将司=文