幼少期に体得した「人と違うことをする」
荒木さんの“映画好き”の原点は、幼少時代。
『キューティーハニー』『聖闘士星矢』などで知られるアニメーターの荒木伸吾氏の長男として生まれ、当時、一般家庭ではまだ珍しかったビデオデッキが自宅にあった。
「ビデオソフトが潤沢な時代でもなかったので、テレビで放映された好きな映画を録画して、それをひたすら見ていました。よく覚えているのはディズニーの『ダンボ』と『不思議の国のアリス』。木曜ロードショーで放映されたのを録画して、妹と一緒に50回とか100回、きっともっと見ましたね」。
あまりにも繰り返し見たため、吹き替えの音声や歌はおろか、カット割りやつなぎもすべて覚えてしまったという。
そんなふうにして映像に親しんで育った荒木さんだが、当時は第二次ベビーブームの真っ只中。ものすごい数の子供たちのなかでは「人と違うことをしなくちゃ潰される」ことを幼心に察知すると、それが嗜好にも影響を及ぼすようなる。
「ひらたく言えば天邪鬼なんですが、でもなんかありましたね、時代の空気感。人が多いぞと。だから、たとえばアイドルなら松田聖子より中森明菜。みんなが応援する聖子なんか絶対に応援しない(笑)」。
荒木さんが小学生の頃、1970年代後半から’80年にかけて大ヒットした映画のひとつに『スター・ウォーズ』がある。けれど、同じSF映画でも荒木さんが好んだのは、スピルバーグの『未知との遭遇』のほうだった。
「もちろんスター・ウォーズも好きでしたけど、『未知との遭遇』はポテトサラダのシーンをはじめとして一連の不気味さがたまりませんでした」。
もうひとつ、荒木さんが当時見た映画で忘れられないのは『カプリコン・1』。アメリカ政府による有人火星探査宇宙船計画をめぐる“やらせ”を描くSF映画だ。
「宇宙船が火星へ向かって打ち上げられる直前、船内の生命維持システムに決定的な不具合が見つかり、3人の乗組員は宇宙船から降ろされるんです。政府は有人飛行に見せかけた無人飛行を決行し、火星の捏造画像などを使った“やらせ”で国民をだましますが、宇宙船が地球に帰る途中で大破してしまう。
その結果、政府の“やらせ”に付き合って地球にいた乗組員たちが“存在してはいけない人間”になり、政府に殺されそうになる。政府による壮大なうそを描いた先駆け的な映画で。いわゆる名作の部類ではないですが、深いところで少なからず影響を受けていると思います」。
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