物選びに生まれた新しい価値観
40代になって変わってきた価値基準は、どのような点なのだろうか。
「作り手が、何をもってデザインしたかという背景が気になり始めています。これは、デニムだけでなくほかのプロダクト全般においてもそう。誕生したストーリーを知ることが、自分にとってそれを好きになるきっかけになるんです」。
その視座は、ファッションの粋を超えて、伝統工芸品にまで及んでいるそうだ。
「職人が丹精込めて作ったものは、大切に長く付き合いたいと感じています。技術を獲得するにいたるまでに積んできた研鑽、あるいは、まったく新しい角度からの発想など、それらを知ることで、作り手の価値観に共感できますから。最近は、そうした背景のあるものこそ、手にしたいし、身に着けたいと感じます」。
気になるブランドがあるという。
「オーシャンズにも掲載されていましたが、ゴールドマンサックスをやめて銅冶勇人(どうやゆうと)さんが立ち上げたブランド、クラウディに注目しています。
アフリカの支援にしても、ただの寄付ではなく、そこにもの作りの需要と供給を満たしたビジネスを成立させた経済的自立への支援。そこに挑戦している人には共感できますし、作っているもの自体も魅力的。
自分が心地良くなれる服を着るだけでない“プラスアルファ”ができれば、と強く思います」。
柏田テツヲ=写真 石黒亮一(太田事務所)=スタイリング 佐鳥麻子=ヘアメイク 髙村将司=文