「ラブを大切にすること」
その後、アメリカに残ると決めた彼は、ボストンで5店舗目「Tsurumen Davis」を出店。今までと違ったのは、本気になるために「終わりを決めた」ことだ。そして、楽しく経営することを目指した。そのためにいくつかのルールを設けている。
まずは、「ラブを大切にすること」。店主の思いが空っぽなラーメンを食べても美味しくない。逆に、「美味しいものを食べて欲しい」という店主の思いが詰まったラーメンは人から求められる。それが結果的に店の繁盛にもつながるのだ。
そして、「スタッフの募集要項は店内にしか貼らないこと」。いくらやる気があっても、お店のラーメンを食べたことのない人を採用することはしない。わざわざ店に足を運んでくれて、この店のラーメンに魅力を感じてくれた人に働いてもらいたい、そんな思いからネットにも掲載せず、店内にあるポスターだけで募集を呼びかけている。
ボストンの新聞「ボストン・グローヴ」でも1面に
他にも「メンバーを大事にすること」がある。鶴麺デイビスではスタッフのことを「ファミリー」と呼ぶ。現地の学生らがファミリーとして働くため、彼は学生に対し親のように振る舞い、月に一度でも働いたファミリーには、何回でも賄いを食べに来て良いとしている。
そして行列に並んで賄いを食べに来たファミリーは、言わずとも『いただきます』『ごちそうさま』をし、洗い物を手伝ってから帰るといった文化が根付いている。辞めたファミリーもまた、我が家のようにラーメンを食べに帰ってくる。
これらのルールが機能し始めたことで、ラーメン店は大きな評価を得た。最低気温マイナス10℃以下にもなるボストンで、人々はその一杯を求めて行列をつくる。また、ボストンのグルメサイトで「今、最も熱いレストラン」で、3カ月連続の1位となった。そして、ボストンの新聞「ボストン・グローヴ」でも1面に登場した。「かっこよく、おもしろく、冒険する」ことを意識してきた大西にとって、今回の冒険は無事にゴールできそうだ。
1000日しか営業せずに5年後には店を閉める。終わりを決めることで動き出した大西のラーメン店。お店やスタッフを大事にしている大前提はあるが、本気で向き合うことができたからこそ、ラーメン店は再び好転し出した。2021年が始まったばかりのいま、中途半端な成果に思い悩むのであれば、「終わりを決める」ことで進んでみてはどうだろう。
上沼 祐樹=文 石井 節子=編集
記事提供=Forbes JAPAN