軒先の赤いベンチには、渡辺真史と談笑するひとりの女性。笑顔が似合うこの人こそ、訪問先「ホテル ドラッグス」のオーナー、ナタリーだ。
渡辺 いつも、おいしいチャイラテを淹れてくれてありがとう。
ナタリー こちらこそ! 初めて会ったのは私がまだ20代の頃で、当時は渋谷のストリーマー コーヒーカンパニーでバイトをしていましたよね。
渡辺 懐かしい! 確かあの頃はダンサーが本業だったよね。
ナタリー ガッシガシ踊ってました。名古屋から16歳で上京して……。
渡辺 今じゃ1児のママだもんな〜。カフェのオーナーを目指すようになったのはいつ頃から?
ナタリー バイトを続けるうちにコーヒーの魅力に惹かれていって自然と、かな。人と話すことも好きだったんで。
渡辺 思うままに直進する。それってすごくナタリーらしい。
ナタリー 勢いで突っ走っちゃうから事故も多いです(笑)。ストリーマーを辞めたのも半分勢いで、クラウドファンディングでここを立ち上げたのが5年前。この場所も、たまたま友人から空き物件の情報を教えてもらって。
渡辺 周りが助けてくれるのは、すごく大きな才能だと思う。でもそれは、ナタリーの素直さが伝わるからこそ。
ナタリー 変に小細工できないんです。気持ちが全部ダイレクトに出ちゃう。
渡辺 この店は、ナタリーの“好き”が詰まってるよね。コーヒーのほかに、かわいい歯ブラシや消しゴム、手作りのキーホルダーまで。
ナタリー 地元で小さい頃に通った“駄菓子屋”のような店にしたくて。
渡辺 そういう店って、東京では少なくなっちゃったな。この店は貴重だね。
ナタリー 子供がワクワクする空間。大人はホッとする空間。私はそこにいつもいる、“頑固ババア”みたいな存在になりたい(笑)。それは私にとって大事なコミュニティなんです。
渡辺 千駄ヶ谷と原宿の間、この辺の落ち着いた雰囲気もマッチしてるよね。
ナタリー ファッション関係者や感性が豊かな若い方、近所のお年寄りまでいろんな人たちがいる。穏やかだけどどこか活気がある素敵な場所です。
渡辺 すぐ近くに新しい国立競技場もできて街は新しくなっていくけど、同時に古き佳き場所も大切。ここも、東京の“残したい場所”になっていくと確信してるよ。そう、日本橋に姉妹店もできたんだよね。おめでとう!
ナタリー ありがとう〜!
——突然「ただいま〜」と声が掛かる。ふと見ると、笑顔の常連客の姿が。ナタリーはベンチに座ったまま、「おかえり」と微笑んだ。若木信吾=写真 増山直樹=文