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貴族の遊び場は泥のフィールド!?

アストンマーティンという自動車メーカーはライオネル・マーティンさんがパトロンである伯爵さまのために誂えたワンオフのレーシングカーが、イングランドのアストン・クリントンで行われたヒルクライムに勝利したことを起源としている。
アストンには定番モデルも存在していたが、工房に多くの腕利き職人たちを抱えていたので、紳士がサヴィル・ロウでスーツを仕立てるように、オーダーの際に自らの嗜好を盛り込むことができた。ある者は車内をシガールームにすべくグローブボックスに喫煙具をしまうケースを注文し、世界一有名な諜報部員はDB5にマシンガンをはじめとする秘密兵器を仕込ませていたとかいないとか……。
ハンティングは貴族の嗜みとして有名である。アストンマーティンもそんな彼らの要求に応え、スポーツカーのボディ後ろ半分をワゴンスタイルに作り変えたシューティングブレークなるモデルも誂えていた。つまり今回登場したDBXは“貴族が狩りに乗っていくための車”の末裔なのである。
とかく日本人は英国貴族とかアストンマーティンに、華やかで礼儀正しくハイソなイメージを抱きがちではないだろうか? 実際の彼らはもっと好戦的で野蛮な一面もあるのだ。
DBXのオーナーはぜひラゲッジスペースに散弾銃……とは言わないが、選び抜かれた大人の遊び道具を仕込んで、泥っぽいフィールドに果敢に繰り出していただきたい。
モータリングライター
吉田拓生
職業は英国車を偏愛するモータリングライター。生活は森の中に棲んで薪を割り、菜園を耕し、蜜蜂を世話する自給自足系カントリースタイル。趣味はヨットレース、自動車レースなどなど。
 
 

いい意味で裏切られた!

かつて、アストンマーティンDB4、5、6をメイン商品とするクラシックカー専門店に勤務し、今なおアナクロな筆者としては、アストンマーティンがSUVを造る、しかも伝統の「DB(デーヴィッド・ブラウン)」の名を冠すると聞いた際にネガティヴな違和感を抱いてしまったことを、まずは正直に告白したい。
しかし、この10月に開催された自動車趣味人のためのイベント「浅間サンデーミーティング」会場において、初めて陽光のもと目にしたDBXの第一印象は、決して悪くない。むしろ、積極的に格好いいと断じてしまいたくなるような魅力を湛えていた。
見方によっては多少子供っぽく感じられるSUVの中にあって、ランドローバーの各モデルやベントレー ベンテイガなどに代表される英国車は、エクステリアとインテリアともにいい大人がスーツにネクタイを締めて乗ってもギャップを感じさせない渋味があるのだが、DBXにはさらにスポーツカーとしての色気も加味される。
ただし、今も昔もアストンにとって大切な属性のひとつである「ボンドカー」とするにはDBXはいささかワイルドすぎて、どちらかといえば敵方の車のほうに向いてそうな気もするが、そこはご愛嬌。
それでも、既に降板が決定しているというダニエル・クレイグに代わる次期ボンドに、例えばジェイソン・ステイサムあたりが選ばれるならば、あるいは似合うかもしれない……? 
イタリア語翻訳家兼自動車ライター
武田公実
フェラーリの日本総代理店で勤務したのち渡伊。帰国後は旧ブガッティ社日本事務所を経て、ライターとして独立。各種自動車イベントに参画するほか、自動車博物館の企画・監修に携わる。
 

谷津正行=文


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