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“ないもの”ではなく“目の前にあるもの”を見る

状況を変えたくて、滝沢さんはある行動に出た。ごみ清掃員の仕事を楽しもうと努めたのだ。言うは易しだが、好きでもない仕事を楽しめるものなのだろうか。
「自分の場合、ごみ清掃の仕事に対して完全に気持ちが閉じちゃってることに気付いたんです。目の前にある“ごみ”を見ようとせずに、『俺はお笑いでもっと……』みたいに、そこにないものばかり求めていた。ないものを求めてイライラするより、目の前にあるモノで楽しめることを考えたほうがよっぽどヘルシーじゃないですか」。
これまで見ているようで見ていなかったごみにあらためて視線を注ぐと、見えていなかったものが見えてきた。まず、ごみ出しのルール違反が気になり始めた。さらに見ていると、ごみが人格を帯びるようになった。
写真提供:滝沢秀一
「ごみ回収をしていると、わざわざ袋を破らなくても、回転板が回るときに袋のなかから生活の一部がにじみ出ます。そうすると、このごみを出した人はどんな生活を送っているのか、どんな人格の持ち主なのかがわかる。ごみって生活の縮図なんですよ」。
ごみ清掃員として目にした光景を、いずれバラエティ番組のワンコーナーで話せればいい。最初はそれくらいのノリだったが、ごみの観察を続けるうちに「なぜだろう」と考えることが増えた。地域によって出るごみが違うのはなぜか、そもそもなぜこれほど大量のごみが出るのか。
写真提供:滝沢秀一
仕事に対する姿勢が変わると同時に、ほかのごみ清掃員たちとの関係性も変わっていった。ごみ清掃員はごみ好きな人が多くて、飲みに行ってもごみの話ばかりしていると知った。そして、滝沢さんと同じように夢を追いかけている人、俳優や小説家の卵が少なからずいる。
滝沢さんが“ごみ研究”を本格的に始めたのも、そんな同僚のひとりがポツリと口にした言葉がきっかけだった。
「ある日、ごみ回収車で一緒になった運転手が『中防の寿命もあと50年だな』と言ったんです。当時はごみの知識が皆無だったから『チュウボウってなんですか?』と聞いたら、東京の中央防波堤埋立処分場の残余容量は、あと50年分しかないと教えてもらって。家に帰って調べたらその人の言ってたことは事実で、これはたいへんな事態だと」。
以来、ごみをめぐる環境問題にも興味を持ち、いろいろなことを調べて考えるようになった。物も人も、すべてがこれまでと違って見えるようになっていた。


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