変わった自分、変わらない自分
そうやって得た気付きやウンチクを、試しに“ごみ清掃員あるある”としてツイッターで発信したところ、好評を得た。事務所の先輩の有吉弘行さんのリツイートでさらに拡散されると、やがて出版社から「本を書きませんか」と声が掛かった。
その後、ごみ清掃員の日常を赤裸々につづった書籍『このゴミは収集できません』(白夜書房)を出版。異例のヒットとなり、2020年秋には続編『やっぱり、このゴミは収集できません』(白夜書房)を上梓した。ちなみに、2014年に出版されたホラーサスペンス小説『かごめかごめ』(双葉社)も、ごみ清掃員としての実体験にインスパイアされて書いたものだ。
今、ごみ清掃員・研究家として再びメディア露出が増えた滝沢さんは、かつてのエンタブームでお茶の間を賑わせたマシンガンズ・滝沢とはまるで別人のように見える。
「そりゃあ変わりましたよ。まず仕事が変わった。ここ最近に限って言うと、ごみ清掃員の業務に加えて芸人としての仕事も“ごみ”に関するものばかり。ごみ関連が100%になりましたね。
あとは、生活スタイルがガラリと変わりました。早起きになったし、酒もほとんど飲まなくなったし、家族と過ごす時間が増えた。コロナのパンデミック以降は抵抗力をつけなきゃと、グルテンフリーと腸活も始めたんです。そのおかげか、なんか肌がめっちゃきれいになって。人に会うたびに肌を褒められてます(笑)」。
やはり別人……と思ってしまいそうだが、芯の部分はまったく変わっていないのだそう。
「自分は良くも悪くも真面目な人間なんだな、と。ごみ清掃員になるまでの自分も今とは違う意味で真面目だったんですよ。芸人たるもの、酒をいっぱい飲んで、破天荒に生きるべし! みたいなのを頑張ってやろうとしていたんじゃないか。振り返るとそんな気がします」。
変わった部分も、変わらない部分もあるけれど、現在の自分は嫌いではない。最後にそう教えてくれた。
「今はすごく気が楽なんですよ。ごみ清掃の仕事を始めて居場所が増えたのは間違いないので、今日はこっちでうまくいかなかったから、あっちで頑張ればいいや、みたいなことができる。
当面の目標は、この生活を続けながら、日本のごみ削減に尽力すること。ごみ清掃員と芸人の両立は、そのためにやってるんだ、くらいの気概があります。実現のために生活を変える必要があればそうするかもしれないけど、少なくとも昔の自分には戻りたくないかな。せっかくの美肌を手放したくないんです(笑)」。
プロフィール
滝沢秀一(たきざわしゅういち)●1976年、東京都生まれ。太田プロダクション所属。東京成徳大学在学中の1998年、カルチャースクールで出会った西堀亮とお笑いコンビ「マシンガンズ」を結成。「THE MANZAI」で認定漫才師に選ばれるなどコンビとしての実績をあげつつ、2012年、ごみ収集会社で常勤を始める。2014年に『かごめかごめ』(双葉社)で小説家デビュー。2018年、エッセイ『このゴミは収集できません』(白夜書房)を上梓したあと、漫画『ゴミ清掃員の日常 ミライ編」(講談社)、絵本『ゴミはボクらのたからもの』(幻冬舎)を立て続けに出版。最新刊は『やっぱり、このゴミは収集できません』(白夜書房)。
「37.5歳の人生スナップ」もうすぐ人生の折り返し地点、自分なりに踠いて生き抜いてきた。しかし、このままでいいのかと立ち止まりたくなることもある。この連載は、ユニークなライフスタイルを選んだ、男たちを描くルポルタージュ。鬱屈した思いを抱えているなら、彼らの生活・考えを覗いてみてほしい。生き方のヒントが見つかるはずだ。
上に戻る 岸良ゆか=取材・文 赤澤昂宥=写真